271.ウエンザル岳[三角点名:高尾山](北部日高/1576.4M) | ||
滝も滑も函もない完璧なブタ沢でしたが藪漕ぎだけは文句なしに一級品 | ||
週明けに富良野岳まで遠征したので週末は北日高と決めていた。本当なら二岐岳とかルベシベ山あたりなのだが、ヌカビラ岳遭難事故と林道無許可入林問題などがありどうも足が向かない。事態の鎮静化を待つこととし、今回は日勝峠と芽室岳の中間付近の主稜線上に位置するウエンザル岳に沢から上がることにする。 ややこしい山名 地形図に「ウエンザル岳」という名はなく、三角点が設置された1576.4メートルの無名峰である。西に流れ出るウエンザル岳の源頭に位置することから、そう呼ばれているのではないかと推測される。ちなみに、三角点名は「高尾山」で、通称名とのあまりの乖離には驚くばかりである。なお、日勝峠「ウエンザル橋」の南に位置する1073メートルの無名峰があるが、こちらは漢字の「宇円沙流岳(うえんざる)」と呼ばれているらしい。地形図に明確に山名が記入されている場合は別として、無名峰の場合は、通称名があったり、三角点がある時は三角点名で呼ばれたりするからややこしい。ついでに言うと、三角点名と山名の関係も面白い。北日高にペンケヌーシ岳という山があるが、三角点名は「弁華主」である。素直に読むと「ベン・ケ・ヌシ」だろうか。通称名を漢字に置き換え三角点名としたのか、それとも逆か‥。いずれにしても、「う〜ん」と唸ってしまうような命名センスではある(笑)。時間が許せばそんなことも調べてみたいものである。 正体はバレバレ ルートは芽室川右沢なので芽室小屋が登山口となる。6時30分過ぎに行くと、珍しいことに沢装備の登山者がいる。おそらく西峰狙いだろうと思いながら準備していると、次々と登山者がやってきて、皆さん挨拶しながら沢スタイルに変身する。それだけならいいが、十勝岳連の幹部が勢ぞろいしているではないか。私も一応岳連所属なので居心地がいいはずない。そそくさと入山ポストに書き込み出発しようとすると、女性の方がやってくる。挨拶して高尾山遡行を告げると、「ganさんの本に出てましたね」と意外な答えが返ってくる。驚きを禁じ得なかったが悪い気はしない。この日は十勝岳連の沢訓とのこと。私の素性もバレバレになったこともあり逃げ出すように小屋を後にする。木橋を渡り直ぐに入渓する。この右沢、河原林はそれなりにあるが、獣道がほとんど発達していないので川岸や川中をジャブジャブ行く。30分弱で650二股となり、ここは右に入る。水量はほぼ同じぐらいだ。 鬱蒼とした渓相 河原林は次第に姿を消し、沢そのものも灌木などに覆われて鬱蒼とした雰囲気となる。天気もパッとせずテンションも上がらないが、そろそろ何か出てくるという期待感だけで遡行する。左岸から枝沢が流入するとようやく滑床が現れるが、長さは20〜30メートルと可愛い。810二股を右に入り、次の880二股は左を選択する。前者でピンクテープを見るが沢登りのコースサインかどうかは不明である。川岸のブッシュが倒れていたりもするが、おそらく鹿の仕業だろう。遡行者の明確な痕跡を見ることはない。ここまで上がると流石に水量は落ちるが、沢音だけはしっかりと発している。期待に反して、遡行を阻むものは何一つ出てこない。そのかわり沢の傾斜が平均的に増していく。登りは快適だが下りは少し気を使いそうである。Co950付近で突如として水流が消失する。源頭にはあまりに低く、おそらく伏流となっているだろうと読んだが、それは5分ほど歩いて的中した。 尾根鹿道に期待 ホッとしつつも、流木やブッシュでどこまでも鬱蒼とした沢に嫌気がさしてくる。おそらく、核心部は通過していると思われ、このあたりから三角点に固執しただけの遡行となる。振り返ると芽室岳北尾根で、その右に目を転じると主稜線1498Pや1529P付近が望めるが、間もなくガスに覆われそうだ。Co1220二股は沢形が明瞭で水量も多い右に入るが、それもCo1250付近で源頭となる。沢形は依然ハッキリしているが、そこからは一面の笹藪で、救いは笹丈が腰程度の比較的易しいそれだったことだろうか。沢形がやや左に曲がる辺りから、そこを離れ笹斜面に取付く。早めに尾根の背に乗り鹿道を利用する‥という思惑である。灌木やハイマツが少し混じりだすが、笹を掴んで急斜面を登り切り何とか尾根の背に上がる。雲間から一瞬十勝平野が見えたが直ぐに隠れてしまう。ここでストックが1本無いことに気づく。下降は東面直登沢を予定していたが、これでそのプランも消えてしまう。 登山者痕跡ゼロ 尾根の背は緩やかで鹿道などなくハイマツの海である。少し南側はややハイマツが薄いのでそこにルートをとる。前方に薄ら見える高みがピークのようだ。それにしても遠い。いよいよ周囲はハイマツ一色となり、気合を入れてそこへ突入する。主稜線まで上がると待望のピークまでは100メートルほどとなる。久々の本格的なハイマツ漕ぎに耐えること20分弱、待望のピークに到達する。と言っても三角点が見あたらないのでGPSを拡大表示させて探す。10分ほど探索するも見つからない。GPSは頂上を示しトラックログもあるのでそれをもって登頂とする。ピンクテープや刈込は勿論、登山者の痕跡は全くない。積雪期の縦走途上に踏まれるだけのピークで、沢から遡行しようなどと考える物好きな登山者はいないということか。天気が良ければ、北日高の新たな山岳景観を目にすることが出来るはずだが、生憎のガスでそれはないものねだりである。 幸運なストック およそ15分の滞在の後、頂上を後にする。念のためコンパスを切って尾根を下っていくと遡行時に付けたコーステープに出会う。沢への下降ポイントだが、そこから5分の所でストックを発見する。白水沢では流失寸前のところをOginoさんに拾ってもらい、今回は見つけてくださいとばかりに笹に浮いていた。幸運なストックというべきだろう。あとは笹斜面を断続的な尻滑りで源頭まで降りきる。沢登りに高価なウエアなど必要ないことを痛感する。撥水性さえ良ければ厚手のジャージか作業ズボンでいいだろう。冗談抜きにホームセンターでそこそこ揃ってしまうかもしれない。高巻きも懸垂下降もないが、平均的に傾斜のある流れの中を降りるのはそれなりに辛いものがある。何度も流れの中でスリップしたり転倒したりで、下降といえども意外と時間がかかる。それだけに、西峰ルートの650二股に辿り着いた時には精神的にも肉体的にも安堵を覚えたものである。 意義のある沢行 遡行時には無かった川岸の踏跡やちょっとした巻道に沢山の遡行者の存在を見る。果たして、夏道を下るであろう岳連のメンバー達は下山しているだろうか。後ろめたい身としては、出来れば顔を合わせたくない(笑)。私の願いが通じたか、彼等はまだ下山してきておらず、急いで帰支度をする。今回のウエンザル岳南東面沢は見所が全くない沢と言っていいだろう。私のこれまでの経験ではワースト3に入るブタ沢である。滝も滑も函も何もないが、笹藪漕ぎとハイマツ漕ぎだけはしっかりあるというアンバランス振りもワーストの要件を満たしている。結果として、短い沢にも拘らず遡行に5時間、下降に3時間弱を要しており、忍耐の沢ともいえる。いつも美味しいものばかりを食べていると美味しさにマヒしてしまうのと同様に、時にはブタ沢を経験することでその美しさや快適さに敏感でいられるのだと思う。その意味では価値ある沢行で後悔はない。 |
■山行年月 |
2010.08.07(土) |
■天気 |
曇 |
■同行者 |
単独 |
■山行形態 |
沢登り |
■コース:往路/帰路 |
芽室川右沢南東面沢 |
↑ |
コースタイム | |
地点分岐等 | 時間 |
登山口 | 6:50 |
Co810二股 | 8:05 |
Co1220二股 | 9:45 |
東尾根Co1500P | 11:10 |
ウエンザル岳 | 11:55 |
所要時間 | 5:05 |
ウエンザル岳 | 12:10 |
Co1220二股 | 12:45 |
Co810二股 | 13:45 |
登山口 | 14:45 |
所要時間 | 2:35 |