410.ニペソツ山(東大雪/2012.9M）
マニアックな南稜ルートの痩せ尾根にビビりながら捲土重来を決める
GWに2年続けて悪天敗退したニペソツ山。今回は時期を2週間ほど早めて再々挑戦することに。ルートも、定番ともいうべき杉沢コースではなく、六の沢林道からの南稜ルートに変える。初ルートの魅力に惹かれたというのが真相だが、このルート、マイナーというか、マニアックというか、とにかく、情報量が少ない。それだけ登山者が少ないということになるが、東大雪の主たる縦走ルートであり、アプローチとなる幌加六の沢林道はそのエスケープルートとして使われることが多いらしい。なので、私のようなピストン山行に至っては全くレアなケースということになるのだろう。【①除雪終点Co617P→峠→Co1080P（BC）】試される忍耐力　1日目はBCまでの林道歩き。主稜線1736P（通称：大平山）南東尾根末端のBC予定地（Co1016P）までおおよそ12～13キロほど。何度かアップダウンもあるので忍耐力が試されそうだ。8時前に幌加ダムの除雪終点（Co617P国道からここまでは冬期間除雪が入っている）をスタートする。固雪に前日のものと思われるスキートレースがあり、想定外の人間の形跡になぜか安心する。勿論、動物たちの活発な活動を示す足跡もあり、鹿に混じって爪痕明瞭な羆のそれもある。平坦で直線的な林道歩きは15分ほどで終わり、三の沢沿いの林道に入ってゆく。二つ目の橋「三の沢橋」を渡ったところで3メートルほど路面が出ていたが、無理やりスキーのまま通過する。Co660Pの林道分岐を左に入り、「たきのさわばし」を過ぎると本格的な登行となる。だが、それも高度にして50メートルほどで、再び緩やかな登りとなり、Co850過ぎまで続く。傾斜が急となり、左・右・左と蛇行を繰り返すとほどなく峠で、ここで小休止する。気になるワード　この峠はニペソツ山東壁のビューポイントのはずだが、針葉樹がすっかり成長してその面影はない。そばには木製の「慰霊の碑」が設置されており、ニペソツに散った3名の若者の父母によるものだった。昭和60年というからもう30年も前の話だが、関係者にとって、これで悲しみが消え去る訳ではない。つくづく、山で命を落とすべきではない。合掌の後、リスタートを切る。林道は大きく「く」の字を描き高度を幌加川まで下げる。高度は100メートルぐらいなのでショートカットとも考えたが、樹木が混んでいるのでやめる。初めは正面にウペペサンケの巨体がのぞめ、次いでニペソツが視界に入ってくるが、どちらも1700メートルあたりから上はガスに包まれている。「今日はいいから明日さえ晴れてくれれば‥」と願う。前述のスキートレースは、幌加川にかかる「幌加滝の沢橋」の手前から林道を離れ上流方向に伸びている。こちらを詰めてもニペソツに上がれるが、相当のテクが必要で上級者限定ということになろう。ただ、沢屋の端くれとして、「滝の沢」というワードが気にならないと言ったらウソになる。どれほど滝が出てくるやら‥。鼻を衝く硫黄臭　尾根を回り込む林道は微妙なアップダウンや蛇行を繰り返しながら目的の尾根へと近づいてゆく。Co880で林道は沢を渡るがここに橋はなく、SBを利して対岸へ。林道にも細い樹木が生い茂るようになり、スキーの脱着を強いられる。向きを変えた林道を一登りすると広い土場に出る。以前、ツアーで六の沢川を遡行し丸山まで登った記憶が蘇る。入渓ポイントがこの近くだったのだ。もうどこにテントを張ってもいいのだが、時間もまだ早いので先に進むことにする。丁度、コンパスの指す方向に太い林道が走っているような、樹木のないエリアが続いている。結局、地形図林道終点から1キロ強ほど、Co1080までテントを担ぎ上げ、樹間にベースキャンプを設営する。時折、硫黄臭が鼻を衝くが、そういえば南隣の丸山は東大雪唯一の活火山だった。いつものように早めの夕食をとりシュラフに潜り込む。外は小雪が舞い、ラジオが翌日の天気は「曇り」で、山沿いでは雪も降ると伝えている。大きく崩れることはないものの、大景観を楽しみながらピークへ、などというシーンに出会うことはなさそうである。【②BC→大平山→ニペソツ山→大平山→BC】先ずは大平山へ　2日目、予報通りの天気に落胆するも、とりあえずは大平山まで行ってみることにする。15分も行くと傾斜が一気に増す。ガリガリバーンの上に薄らと新雪が積もり、最初のうちはスキーが団子状態となる。それが取れると、今度はシールでは歯が立たず、スキーがズルズルと滑り出す。スキーアイゼンをつけて、なんとかジグ登行を続行する。樹林帯を抜け出すと傾斜は一旦緩むが、灌木帯を過ぎると再び傾斜がきつくなる。目印になるものもないのでデポ旗を小まめに打ってゆく。視界は200～300メートルほどで、小雪が降ったり止んだりの状態だ。右足元には六の沢川源頭斜面が大きく広がり、大平山東尾根も見えるようになってきた。が、いよいよスキー登行が困難となり、Co1550でスキーをデポしアイゼンを履く。せめて、大平山まではと考えていたが、安全第一の判断である。果てしない急登が続いていたが、Co1700辺りで傾斜が緩み、尾根幅が広くなり始めた。待望の稜線で、相変わらずの視界不良だが、風が弱いのが救いだ。空身で核心部へ　大平山は平坦な尾根を10分ほど進んだところで、東側は意外と雪庇が発達している。大平山1736メートルに到達し、この先のプランをしばし検討する。問題は天候だが、「悪いなりに安定」しており、急変する可能性は少ないと判断。先へ進むことにする。だが、目の前には野球場でもつくれそうな、だだっ広い台地状の地形が広がっている。方向感覚がマヒしそうになるが、コンパスで方向をセットし忠実に歩いてゆくと、目指す細尾根が見えてきてホッとする。ここで雪や風に見舞われたら逃げ場はない。細尾根といっても初めのうちは余裕だったが、Co1760付近からは試練が待ち受けていた。核心部突入である。ここからは空身でピッケルを手にする。簡易ハーネスにセットすることも忘れない。両側はスパッと切れ落ち、特に、西側・シイニペソツ川源頭は雪もつかないほどの絶壁で黒い岩肌が凄みをきかせる。それに比べると、雪面が広がる東面・幌加川源頭はまだ優しい。10メートルの痩せ尾根を慎重に通過すると、今度は角度のある尾根が待ち受けている。尾根幅があるだけ恐怖心はないが、カリカリなら踏み出しをためらうに違いない。自分撮り叶わず　Co1800過ぎには本物のナイフリッジが登場する。5～6メートルだが、ここは傾斜がやや緩い東側に逃げる。とにかく、Co1980の頂稜南肩まで急登が続き、全く気が抜けない。ともすると、険悪な景観に圧倒されそうになる自分を叱咤激励する。アイゼン・ピッケルワークを確実に決めながら高度を稼ぐ。南肩まで上がると傾斜は緩み一息つく。デポ旗を打って登行を再開する。今度は東側が絶壁で雪庇も発達しているので、離れた西側斜面にルートをとる。2つほどギャップを越えると、南峰を従えたニペソツ山がついに姿を現す。ボンヤリとかすみ、空と一体化した印象だが、黒々とした東壁は見覚えのある光景だ。駆け上がりたい衝動を抑えながらアイゼンを確実に軋ませる。BCをスタートして5時間弱、遂に頂上に立つ。まさに、三度目の正直である。雪化粧した山頂標識が静かに迎えてくれる。遠望は全く叶わず残念だが、贅沢は言うまい。この時期、この悪条件の中、頂上に立てただけでも大きい価値がある。証拠写真を撮り下山を開始する。本当はセルフタイマーで自分撮りをしたかったのだが、カメラの置場がなくて断念する（笑）。正直ヘナヘナと　南肩の下降点は、主稜線が急激に落ち込んでいるので見過ごしてしまう可能性がある。西に延びる支稜のほうが明瞭なので注意が必要だ。幸いデポ旗があるので問題なく主稜線に降りるが、ここはクライムダウンする。核心部の処理は、登行時よりも下降時のほうが厄介で、サクサク降りるというシーンは一度もない。ビビる気持ちを抑えながら、バランスよく、あくまで慎重に行動することが肝要だ。ラストの痩せ尾根を辿り、ザックデポ地点まで戻った時は、正直へなへなと座り込んでしまった。相当緊張していたのだろう。あとは往路を戻るだけ。デポ旗を回収しながらスキーデポ地まで下りる。日本刀のように腰にデポ旗をさす。他人が見たら変に思うだろうが、これが結構、効率的なのだ。雪が固くスキーを楽しむ状況ではなかったが、スピードにおいて圧倒的なアドバンテージを発揮し、ピタリ、正午にBCに到着。この日のアタックを無事に終える。時間的には、この日のうちに下山を終えることも可能だが、それではいかにも慌ただしいし疲れてもいた。ニペソツ山登頂の余韻に浸りながら、ゆっくりと午後を過ごすことにする。【③BC→峠→除雪終点Co617P】丸山攻略は自重　3日目は下山するだけなので遅起きを決め込んでいたが、早く目が覚めてしまった。皮肉にも、朝から好天で、前日に少し分けてほしかったくらいである。樹間から見える対岸の丸山もついでに攻略してしまおうかとも思ったが、欲を出すとろくなことはない。自分を戒めつつBCを撤収し、6時に下山の途につく。狙い通り、朝方の雪面はスキーが面白いように滑ってくれる。BC～峠間は長い登り返しもあるのだが、結局は登行時の半分の時間で車まで戻ることができた。道すがら、前2日とは打って変って、ニペソツ、丸山、東丸山、ウペペサンケなど、東大雪の山々が神々しい姿を見せてくれる。いずれも、雪のある積雪期は遠い山と化すのだが、これからは林道も少しずつ開き、ラッセルからも解放される。マイナーエリアにどっぷりと浸かるにはいい時期だ。菅野温泉側からウペペに上がり、東丸山と丸山に足を伸ばすなんていうのもいい。体力よりも技術　さて、南稜ルートの印象だが、アプローチの林道歩きは12キロほどあり、アップダウンもあるので消耗度はやや大きいが、BC設置ポイントが林道終点からさほど離れていないのは有利である。BC～頂上間の獲得標高は1000メートルほどで登り返しはない。ルートの前半に問題となるような地形はなく、大平山までスキーを使えるのも有難い。大平山～南肩間は細尾根と急登が連続する難場で、南稜の核心部といえるだろう。どちらかというと、体力よりも「技術」要素の強いルートで、経験がモノをいうルートでもある。雪の状態にもよるが、パーティならザイルを出すとより安全である。おそらく、中級者レベルと思われる。ここを縦走装備で登行・下降するなど、私には考えられない。日程的には平均的な体力であれば1泊2日で山行を完遂できるだろうが、可能ならば、余裕をもって2泊3日としたい。前述したとおり、このルートを取り上げたガイド本は稀有だが、1995年に東京新聞出版局から発行された「とっておき　北海道の山（三和裕佶著）」に掲載されている。杉沢ルートからニペソツに上がり、南稜・大平山を経て六の沢林道へ降りるという内容で、「春を滑る」カテゴリーで紹介されている。ほかにも厳選ルートが紹介されているので、機会があれば一読してほしい。 ★今回の山行ではスマホが全く通じなかった。下山して糠平源泉郷まで戻ると通話エリアに入り、1日目に娘からのメールが届いていた。曰く「日程的にきつそうなので無理しないでほしい」旨の電話が警察（糠平派出所）からあったというのだ。余裕をもって2泊3日としただけに、この反応は意外だったが、警察としては山岳遭難が相次ぐ昨今、事前に何らかの対応をしておくほうがベターと判断したのだろう。


峠の慰霊碑	愛用のテント

一気に傾斜が	樹林帯を抜ける

強まる傾斜	六の沢源頭

大平山	核心部突入

最初の痩せ尾根	傾斜ある細尾根

黒い西側源頭	ナイフリッジ

切れ落ちる西側	南峰とニペ

雪庇とニペ	山頂標識

南稜方向	南肩のデポ旗

南肩から頂上	南肩から東稜

東稜下部	下降時の核心部

土場から丸山	ウペペサンケ

丸山	前天狗と天狗

峠からニペ	東丸山

国道からニペ	GPSトラック

コースタイム（1日目）
幌加ダム除雪終点	7:50
峠Co990	10:35
テン場Co1080	14:25
所要時間	6:35

コースタイム（3日目）
テン場	6:00
峠Co990	8:15
幌加ダム除雪終点	9:20
所要時間	3:20

コースタイム（2日目）
テン場	4:45
大平山	7:40
ニペソツ山	9:35
所要時間	4:50
ニペソツ山	9:45
大平山	10:55
テン場	12:00
所要時間	2:15




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