412.エサオマントッタベツ岳・神威岳(北日高/1902M・1756Ｍ）
天気にもアプローチにも雪にも恵まれＷカール抱く北日高の秀峰へ
エサオマントッタベツ岳は北面と北東面に美しいカールを抱く秀峰である。伏美岳や勝幌岳から眺める機会が多いが、そのスマートな山容には暫し魅入ってしまうほどだ。今まで一回だけ、札内岳からの支稜縦走の際に立ち寄った（2004年7月）だけで、専ら、眺める山と化している。厳冬期は、最終民家から尾根取付（神威岳北東尾根）までのアプローチがいかにも厳しく、登山者を寄せ付けない。だが、GWともなれば林道はある程度開き、ラッセルからも解放される。私でも2泊3日あればなんとかなるだろうとプランを組む【①林道車止→北東尾根→尾根頭Co1670JP（BC）→神威岳→BC】林道の状態が悪ければ、最悪、最終民家からの歩き出しもあるので早目に出発する。が、戸蔦別林道に入っても雪は全く出てこない。というか、山そのものに残雪がないのだ。結局、6号砂防ダム手前200メートル付近まで入ることができた。流石にGWで、林道脇に5台ほどが止められていた。出発していくパーティを眺めながらそそくさと準備。スノーシューを持つべきか否か迷ったが、軽量化を優先する。踏み抜きのリスクはあるが、先行者のトレースもあるだろうということで‥（笑）。30分で北東尾根の取付となるが、予想通り雪がない。すぐ前を歩いていたパーティは尾根を回り込んでいった。おそらく、雪が詰まっているはずの小沢を上がるのだろう。私は素直に尾根の背にルートを獲る。Co800くらいまではほとんど夏山状態で、笹ブッシュが煩わしく、きつい傾斜が辛いが、登山道かと見まごうばかりの踏み跡は明瞭だ。Co850過ぎで雪が現れ、右手樹間にはピパイロや1967が望めるようになる。玉の汗をかきながら急登に耐えると、Co1000で右手からの尾根に合流。前述のパーティが足元に見えるが、予想通り小沢を詰めてきたようだ。ここまで上がれば尾根は雪に包まれ、ようやく、安定した登行が出来そうな状況となる。ニペソツの時よりは軽いはずなのだが、ザックがやたらと重い。超スローペースで歩を刻む。古いトレースはあるが、心配した踏み抜きもないのでそれをあてにすることもない。背後には妙敷山が凛とした山容を見せる。今回の装備、ウエアに関しては、アウターもアンダーウエアもザックの中で、BCまでは準夏山仕様である。それでも暑く、Co1129からはたまらずＴシャツ一枚で上がる。尾根は南から南西方向へと進路を変え、左手には札内岳が見えてくる。直下のカールが可愛らしい。少し遅れて右手に伏美岳から1967峰までの稜線が登場する。ピパイロ岳の頂上部は真黒だ。Co1150からCo1400までは淀みのない登りが続く。前述の4人パーティと前後を入れ替わりながら雪面にステップを刻む。Co1400まで上がると傾斜は一段落し、尾根筋もやや西寄りに変わる。目指すエサオマントッタベツ岳がようやく視界に入ってくるが、北カールも含む全景が見えるのはCo1488を過ぎてからである。当初プランは、北東尾根頭のテン場の混み具合や、長い林道アプローチを考えてCo1488付近にBC設置を予定していたが、林道状況の好転でそれは当然キャンセルとなる。北東尾根の頭から神威岳方面の稜線も視界に加わり大眺望への期待が高まる。ふと、綺麗に積み上げられた風除けブロックが目に入る。テントもザックもなく、側のハイマツに引っかけられたワカンがなぜか気になった。北東尾根頭直下は意外と傾斜があり、ここは辛かった。先行パーティのステップを拝借しながら何とか主稜線に上がる。そこは爽やかな春の風が吹き抜け、予想通りの大眺望が広がっている。ランチを摂りながら、暫し、展望を楽しむ。エサオマントッタベツ岳への稜線上の雪の付き方はやや少ないが、何とか使えそうなので安堵する。戸蔦別岳へ向かうという3人パーティも到着し、賑やかな主稜線となる。先着のパーティも戸蔦別岳ということで、2パーティとも神威岳の西くらいにBCを設営するらしく、次々と出発していく。食後はテントの設営にかかる。尾根頭から3メートルほど神威岳寄りの雪庇上に1時間ほどかかってテントを立てる。雪庇は安定しており、西側のハイマツが風除けになってくれるのも有難い。適当に風除けブロックを積み、ペグ固定に加え、細引きでテントをハイマツに固定する。尾根頭は地面が出ており1張OKだが風が強い。時間はたっぷりあるので、空身で神威岳まで向かうことにする。ここまで来て神威に寄らないのは失礼というものだろう。雪庇は不安定で所々ハイマツ漕ぎを強いられる。と、戸蔦別岳を目指したはずの後発パーティが戻ってくる。聞けば、主稜線上は予想以上に雪解けが進み、戸蔦別岳までのピストンは相当厳しいと判断。エサオマントッタベツ岳転進を決めたという。何度も遡行しているカタルップ沢源頭斜面は雪が詰まって静かな表情を見せる。神威岳まで西進すると幌尻岳や戸蔦別岳方面の展望が一段と良くなる。東カールを抱えた幌尻岳はとにかく大きく、戸蔦別岳の槍は小さいが天を衝く鋭さだ。北戸蔦別岳から1967峰、ピパイロ岳と続く主稜線、標高も1900メートル前後あり垂涎の連なりである。見た目、稜線上の雪の付き方は弱く、縦走には過酷なアルバイトが待ち受けているに違いない。BCまで戻ると、私のテントのやや鞍部寄りに見事な風除けブロックが完成しつつあった。高さ1メートル以上もあり、静かな夜を約束してくれるはずである。15時も過ぎたころだろうか、私のテント側を「通りますよ」と声をかけてすり抜ける一団が現れる。空身なので神威岳に向かったようだが、北東尾根頭にはザックもない。付近のトレースから見てCo1488付近にテントを張ったパーティのようだ。それにしても、グサグサの柔らかい雪でアイゼンはないだろうと思う。アイゼンを装着したままのハイマツ漕ぎはさぞかし堪えたことだろう。アベーントロートは空振りに終わり、夕食のカレーライスを食しシュラフに潜り込む。テントを叩く風音が煩いが、気になったのは最初だけ。アタック日の好天予報に気を良くしながら眠りに落ちていた。【②BC→主稜線Co1563JP→エサオマントッタベツ岳→BC】 2日目は3時に起床。足元遠くに芽室市街の灯りがぼんやりと浮かんでいる。山の朝も意外と忙しく、朝食、洗顔、装備のチェックなどを済ませるともう4時である。アタックザックを背に、アイゼン・ピッケルスタイルでBCをスタートする。ヘッデンも点灯したのは最初の15分ほど。雪は柔らかくアイゼンの必要はないし、ピッケルよりもストックのほうが良かったが、後の祭りだ。正面にエサオマンを望みながらCo1513の鞍部まで降りる。基本的に雪庇上にルートをとるが、やばそうなそれは迷わず尾根に逃げる。北日高でも最大級の雪庇ができる尾根だけあって、随所にその片鱗を窺うことができる。日の出は4時30分過ぎだが、東側には薄いガスがかかりスッキリとはいかない。モルゲンロートも不発に終わってしまい残念。Co1500最低コルを挟んで北側のCo1563と南側Co1560付近に崩壊間近の巨大雪庇があった。勿論、尾根にルートをとるが、まるで登山道のような踏み跡が例外なくあり、ほとんど藪漕ぎはない。左右の大景観を楽しみながらの登行、我が身の幸運に感謝せずにはいられない。昨秋、遡行した山スキー沢は筋状の雪が残り、デブリの渓谷と化しているのが見て取れる。一方、右足元には馬蹄形の北カールが広がっている。遠目には平坦に映るが、近くで見るとかなりの傾斜で、気軽にスキー滑走などできるものではない。アップダウンを繰り返す稜線だが、Co1604を越えると登り一辺倒となり、尾根も細くなる。西肩に隠れていたエサオマンが左奥に見えるようになると、本峰に近づいたという実感がわく。振り返ってみるが、ラクダの背のような稜線に後続パーティの姿を見ることはできない。尾根が広くなり、傾斜が強まると西肩は近い。ここは尾根西側の踏み跡を上がる。西肩まで上がると、新たに南側の展望が加わるが、とりあえずは、足元の北カールや辿りし尾根筋、高峰群など、北側展望をおさらい的に楽しむ。主稜線上の南側がほとんど黒々としているのが良く分かる。西肩からは西側斜面の踏み跡を辿る。高度差もさほどなく、中部日高の山岳景観を楽しみながら遂にエサオマントッタベツ岳の頂上に立つ。BCをスタートして3時間20分は予定を上回るペースである。最初に訪れた時は赤いテープが風に棚引くだけだったが、今は、小さいながら木製の山頂標識が岩に固定されている。賛否はあるのだろうが、私としては肯定的に受け止めたい。頂上は風が強く、アウターのフードを被って証拠写真を撮る。カムエクは大きさと高さで他を圧する存在感を発揮しているが、品格も備わっており流石に盟主である。その右奥にはドーム状の1839峰が控える。コイカクシュサツナイ岳やヤオロマップ岳も遠望できるが、位置関係から目立つのはポンヤオロマップ岳だろう。端正な山容が特徴的だ。主稜線から外れてはいるがナメワッカ岳は重量感たっぷりで、季節を問わず、岳人にとっては最も遠い山の一つとなっている。その西にはイドンナップ岳と、個性豊かな山が並ぶ。札内JPから東へ派生する支稜も侮れない。札内岳と十勝幌尻岳はいずれも1800メートルを超える大きな山塊だ。更に、八ノ沢や九ノ沢、十の沢のカール群も山岳景観に変化とダイナミズムを与えている。改めて、日高の奥深さと長大さを痛感する。頂上滞在10分でエサオマンを後にする。今日中に下山してしまうつもりなので、早目の行動を心掛ける。ルート的には主稜線を戻るだけなので全く不安はないが、例えば、視界不良時などは西肩からの下降には注意が必要だ。誤って西進（支稜のほうが顕著）したり、カール壁を降りたりする可能性があるからだ。私は念のためテープを打っておいた。Co1750付近でエサオマン転進パーティと行き違う。私が今日中の下山を伝えると、「食料を処理するためもう1泊する」と、笑いながら話してくれた。気の置けない仲間と山で共有する時間はかけがえのないもの。少し羨ましさを覚えつつ別れる。前日、北東尾根Co1500付近にテンパったパーティも来るはずと思っていたら、Co1604南の鞍部で出会う。5人パーティで、彼らは尾根の雪の付き方や藪の濃さを気にしていた。やや疲労困憊気味のメンバーもいたが、1時間少々で歓喜の渦に包まれるだろう。尾根上は風もなく時間の経過とともに気温が上昇する。アウターパンツはともあれ、薄手のアンダーウエア（上下）は余計だった。最低コルから喘ぎながらCo1563に登り返す。その後も小さな起伏は続くが、惰性で乗り切り、10時15分にBCに戻りつく。往復8時間は見ていたので、2時間近く短縮したことになる。私としては上出来で、先ずは涼風に吹かれながら登頂の余韻に浸る。落ち着いたところで、餅入りラーメンを食べ、オレンジを頂く。目的を達成し、下山前の腹ごしらえだが、時間的余裕もあり、結構満たされる時間なのだ。スマホで家族に予定を変更し2日目の下山を伝える。ニペソツの時とは違い通信事情が全くいい。テントを撤収していると3人パーティが上がってきて、空身で神威岳へ向かってゆく。【③BC→北東尾根→林道車止】彼らと入れ替わるように下山を開始する。ほどなく、遠来の単独者と行き違う。戸蔦別岳とエサオマントッタベツ岳の2座登頂を計画しているとのこと。下降気味の天気を気にしていて、1座を選ぶとしたらどちらがいい（？）などと質問され、戸惑ってしまう。難易度と眺望という視点ではエサオマンと答え別れる。GW後半の天気がイマイチのせいだろうか、以後、登山者と出会うこともなく、淡々と下降を続ける。雪の無いラスト200メートルの笹薮急斜面には泣かされたが、尾根取付まで2時間のスピード下山となった。40分の林道歩き、クールダウンにはキツ過ぎるが充分に許容の範囲内だ。だが、車に戻りついて凍り付いてしまう。ザックの上蓋裏ポケットに入れたはずのキーがないのだ。様々な可能性を考えて探すも見つからない。ザックの中身を全てだし、底を覗き込むと、隅に落ちていた。スマホ通話エリアまでの徒歩移動（最低でも15キロ位）を覚悟していただけに、ラッキーという他ない。次回からは、キーを持参しない方法を考えたい。今回の山行は、林道の状況と稜線上の雪の状態がポイントだった。前述したとおり、林道が6号砂防ダム近くまで入れたのは嬉しい誤算だった。稜線上も70～80パーセントは雪庇を利用できたし、藪にも明瞭な踏み跡があり、体力の消耗は最小限に抑えられた。結果論だが、スノーシューの割り切りも好判断だった。何より、2日間とも好天に恵まれたのが決定的に大きいといえるだろう。ただ、全体的に雪が少なく、2004年（5月19日）に日帰りで神威岳に登っているが、その時と同じような印象である。残雪期登山も終盤を迎えた印象である。密かに、来季あたりに残雪期の戸蔦別岳を狙っているのだが、それを成就させるためには様々な条件が整うことが必須条件となる。先ずは、私自身の体力と精神力の維持が課題となる。


北東尾根末端	背後の妙敷山

尾根Co1129付近	伏美岳と妙敷山

エサオマンが‥	北東尾根頭

テン場跡	辿りし尾根

BCと神威岳	エサオマン①

十勝幌尻岳	幌尻岳

戸蔦別岳	1967とピパイロ

ご来光	エサオマン②

札内岳	1513から北望

北カール①	崩壊間近の雪庇

稜線の踏み跡	北カール②

稜線から北望①	稜線から北望②

1670から本峰	札内JPと北東Ｃ

辿りし稜線	北カール全景

西肩から本峰	エサオマン直下

山頂標識	斜面のカンバ

中・南部日高	ナメワッカ方向

1650付近のP	GPSトラック

コースタイム（2日目）
尾根頭（BC）	4:05
主稜線1563JP	5:00
西肩	7:10
エサオマン岳	7:25 7:35
主稜線1563JP	9:00
尾根頭（BC）	10:15 11:45
北東尾根1129	13:00
北東尾根取付	13:45
林道車止	14:30
所要時間	10:25 (1:40)

コースタイム（1日目）
林道車止	5:55
北東尾根取付	6:30
北東尾根1129	8:50
北東尾根1488	10:35
尾根頭（BC）	12:00 13:50
神威岳	14:15 14:20
尾根頭（BC）	14:35
所要時間	8:40 (1:55)




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