420.富良野岳(十勝連峰/1911.9M）
またとない好天利して長年の課題だった原始ケ原から富良野岳に上がる
【①北布礼別→夏道登山口→夏道Co840P（BC）】ザックを新調し　冬の富良野岳原始ケ原ルートは長年の課題だった。登山者で賑わう北尾根やジャイアント尾根等に比べると、訪れる登山者も少なく、どこかマイナーで静寂に満ちた雪原は全く魅力的である。縦走用のザック（ドイターエアコンタクト65+10）を新調し、挑戦の機会を窺っていたが、この週末は久々の好天予報。悲願を成就すべく、入山口となる富良野市布礼別地区へ向かう。最初のポイントは車が何処まで入れるかだったが、北布礼別地区Co360Pが除雪終点となる。ベベルイ零号線あたりまで除雪されているとみていたので、出だしから目算が崩れる。25キロ超のザックを背負い、午前10時過ぎにスタートする。10センチほどの新雪ラッセルは優しいものだが、気の遠くなるような直線が心を萎えさせる。ベベルイ零号線を過ぎるとようやく夏道登山口への林道に入る。上富良野演習場から聞こえてくる大砲音はまるで雷で、ちょっとビビってしまう。付近で生活する人達の迷惑レベルもかなり高いように思えてくる。私など慣れるのはとても無理だ。ベタ雪に消耗す　それに動揺した訳でもないが、右に入る林道分岐を見逃してしまう。100メートル位戻ればいいだけの話だが、それが面倒なので、樹林帯をダイレクトに「秋雲橋」を目指すことにする。小雪が降ったり止んだりの天気だったが、この時は本降りとなり、山の天気は一筋縄ではいかないことを思い知らされる。平均的な登り勾配が続き、ラストは緩やかに林道に降りる。丁度、秋雲橋の手前で合流するが、次第にラッセルが深くなる。雪は止み青空も現れるが、問題なのは雪質で、ベタついてスキー操作がままならない。頻繁な小休止でペースが上がらず、夏道登山口に着いたのが14時までずれ込んでしまう。正直、「ここでテンパってもいいなあ」と思ったくらいである。ただ、当初のBC予定地は布部川二の沢左岸尾根Co1050P付近なので、せめて、二の沢出合まではと思い直しリスタートを切る。そんな決意も著しい消耗の前に、夏道Co840で脆くも崩れてしまう。初日の遅れは、2日目アタック装備1時間早立ちでカバーできると判断、ここをBCと決める。1時間弱でテントを設営。早々に夕食を摂りシュラフに潜り込むが、スマホが通じたのは意外だった。【②BC→富良野岳西コル→富良野岳→富良野岳西コル→BC→北布礼別】シール不調で涙　2日目は2時に起床。予定より30分早くテントを出発する。満天の星空でテンションは上がるが、シールの調子が良くない。気温がかなり低いので粘着力が回復しないようだ。それでも、二の沢出合まではだましだまし行けたのだが、尾根に取り付いてからは状況は一気に深刻化する。板から剥がれること3度、泣きたい気持ちになってしまう。止む無く、傾斜が緩やかになる辺りまで細引きでスキーを引っ張り上げる。新雪の下が固雪だったので何とか踏ん張れた。ここの急斜面（標高差170メートル）突破に75分も要してしまう。この場面、30分ほどはロスしたと思う。糊自体、経年劣化は否めず、来シーズン前には張替もしくは新調しなければならないようだ。もたついている間に夜は明け、緩斜面まで上がると展望は開けてくる。背後の大麓山やトウヤウスベ山はいうに及ばず、モルゲンロートに染まる夕張山地までが一望のものとなる。前方には前富良野岳のあくまで白い斜面が見え、右奥には境山や下ホロカメットク山が視界のものとなる。日和見プランも　ロケーションはいいが、雪が更に深くなり、タイムプランより徐々に遅れだす。ルートは前富良野岳の南東斜面の基部を大きく回り込み、富良野岳とのコル（Co1359P）に出るというものだが、下山時の登り返しを解消するためには、コルを頂点にジワジワと高度を上げてゆくことが必要となる。が、これが実に難しい。顕著ではないものの沢と尾根が交互に現れ、油断すると、前富良野岳寄りになってしまうのだ。修正しながらの斜上行動が続く。スタート後、3時間で樹間に富良野岳が登場する。しかし、山が見えてからが長かった。行けども行けども風景がさっぱり変わらない（笑）。前富良野岳の東面の沢形から東尾根を乗越すと待望のコルとなる。平坦で広いコルの向こうには富良野岳が西面を余すところなく曝け出す。頂上までの標高差は550メートルほどで、2.5時間もあれば到達できるはずである。タイムリミット（11時）内におさまりそうだが、ここまで4時間を要し疲れも感じていた。前富良野岳でスキーという日和見プランも浮かぶ。早々にシーデポ　それを思い留まらせたのは、文句のつけようがない天気である。コルには赤エゾ松だろうか、ミニモンスター群を形成している。それらの間を縫うようにして富良野岳の基部に達する。ここからのルートどりは専ら目視によるもので、上がりやすそうなところを選んで登った結果、稜線から大きく北側にずれ込んでしまった。雪面は一様でなく、すぐに氷化面が現れたのでスキーアイゼンを装着する。しかし、これも長続きはしない。Co1540付近ではスリップして3メートルほど滑落してしまう。即座にシーデポを決断し、アイゼン、ピッケル登行に切り替える。サクサク上がれるところもあるが、大腿部まで埋まるところもある。極力、固そうな雪面を選んで上がってゆく。風になびくデポ旗の向こうには前富良野岳から旭岳へのラインが露わになるが、白い斜面はスキーヤーを引き付けて離さないだろう。高度を上げるにつれ、ハイマツや岩が立派なエビの尻尾を作っている。厳しい風雪が作り出すアートである。見上げる頂稜西肩は近いようで遠い。山頂標識は大鷲　悪戦苦闘している間にCo1750でタイムリミットがやって来てしまう。ラスト160メートル、安定した好天だけに、ここからの撤退はあり得ない。力を振り絞り足を運ぶ。11時45分、何とか頂稜西肩まで上がる。一気に北側から東側にかけての眺望が広がる。手前のポコを越え、大腿までのラッセルに耐えると富良野岳の頂上で、BC出発後、7時間30分を要しての登頂劇だった。まるで、大鷲のようなモンスターと化した山頂標識が面白い。360度の大眺望、どこを見てもため息が出るほど美しい。上ホロからの支稜は中々のボリューム感を発揮し、十勝岳は端正な山容を誇っている。眼下北側のG尾根頭からホコ岩にかけての平坦な地形が穏やかな雰囲気を醸し出す。良く見ると、移動中の登山者の姿もある。おそらく、私の姿も見えていることだろう。直下北尾根にはトレースもあるが、山頂にその痕跡はない。登攀中なのだろうか‥。雪に埋もれているような十勝岳温泉街だが、今日はそこをベースに行動している登山者もたくさんいることだろう。ヘッデンを紛失　北西方向には上川平野が広がるが、この豊饒な大地とて白い山々に依拠し寄り添っている。山は力の源なのかもしれない。滞在5分で大景観をカメラに写し、脳裏に焼き付ける。慎重にコルまで降りて前富良野岳の樹林帯まで戻ってようやく一息つく。振り返ると、富良野岳の頂上付近にはガスがかかっている。良い時に登らせてもらった。誰にともなく感謝する。途中で前富良野岳方面に伸びるスキートレースと交差する。快適なスキーエリアなので、週末の好天と来れば、例え、長い林道歩きがあったとしても訪れる価値はある。二の沢左岸尾根緩斜面で少しだけスキーを楽しみ、シール不調で苦労した尾根末端の急斜面も二の沢側に滑り降り、難なく処理する。ただ、夏道に降り立った時は疲労困憊状態で、重い荷を背負ってこの日のうちに下山するのは無理だと感じていた。BCからはスマホも通じることだし、家族に予定変更を伝え翌朝下山するつもりでいた。だが、直後に思わぬ事態が発覚する。ヘッドランプがないことに気づいたのだ。あっさりと下山　おそらく、急斜面でシールの着脱を繰り返しているうちに紛失してしまったのだろう。ランプなしでも夜は越せるが、不便なことに変わりはない。結局、この日のうちに下山することを決める。BCに戻ったのが14時過ぎ。1時間弱でテントを撤収し、15時に下山を開始する。充分な食事も摂れず、ここまでは気力だけで行動してきた。スタミナ不足に縦走装備は堪えるが、スキーが思いのほか良く滑ってくれる。雪がベタつくのが心配だったが、林道にはこの日の登山者のトレースもあり、それは杞憂に終わった。最低でも2.5時間ほどはかかるとみていたが、あっさり1時間で下山を完了してしまった。改めて、スキーのアドバンテージを痛感したものである。なお、前述のスキートレースはベベルイ零号線を南に向かっていた。私はこの付近の除雪事情に疎いが、もしかすると奥まで除雪が入っている道路があるのかもしれない。スキーとザックを車に放り込む。はちみつレモンをグイ飲みし、オレンジを頬張る。達成感に包まれるのを感じていた。登らせて貰った　今回の山行は、何といっても好天に恵まれたということに尽きる。勿論、自力では登ったのだが、登らせてもらったというのが正直なところだ。また、ルートについては、正確には、原始ケ原から富良野岳という訳ではない。広義ではそれに包含されるのかもしれないが、実際のところは原始ケ原は通っておらず、二の沢左岸尾根から前富良野岳の南東面基部を回り込んでコルに至るルートだった。どのルートが正解かは一概に言えないが、オーソドックスに三の沢側に回り込んで、沢形が消失するあたりで原始ケ原に出るのがいいと思う。帰路の登り返しを心配しながらルートをとるなどという苦労はしなくて済むし、下山時のスキーも多く楽しめると思う。そのためにも、初日の行動がポイントとなる。私の場合は、のんびり構えて遅立ちしてしまったが、早立ちすることで選択肢は広がるし、原始ケ原まで到達することも難しくはない。何より、2日目の行動に余裕が出るというものだ。その意味で、結果オーライではあったが、私のプランには問題があったと言わざるを得ない。反省点はあるが、「裏」富良野岳を満喫できたことは間違いなく、大満足の山行であった。


出だしの直線	日が差す林道

夏道登山口	夏道上のBC

朝日に染まる	前富良野岳

境山と下ホロ①	大麓とトウヤ‥

富良野岳①	前富の樹氷群

境山と下ホロ②	前富東斜面

富良野岳②	コル北望

コルの樹氷群	前富良野と旭岳

エビの尻尾群	奥に上川平野

頂稜西肩	西肩からピーク

十勝と美瑛	直下からピーク

大鷲の山頂標識	境山と下ホロ

三峰山方向	北尾根方向

ホコ岩とG尾根	山頂から西望

山頂から西肩	GPSトラック

コースタイム（2日目）
Co840(BC)	4:25
尾根取付	4:50
コル	8:30
富良野岳	12:00 12:05
コル	13:00
尾根取付	13:55
Co840(BC)	14:15 15:05
北布礼別	16:05
所要時間	11:30 (0:55)

コースタイム（1日目）
北布札別	10:10
秋雲橋	12:30
夏道登山口	14:00 14:30
Co840（BC）	15:20
所要時間	5:10 (0:30)




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