433.夕張中岳(夕張山地/1493M）
重雪に苦しみながらも好天と大眺望に背中を押され後芦別山列の鋭鋒へ
【①温水池側除雪地→十八線川林道→渡渉点→槙柏山・御茶々岳コル（BC）】月夜のテント泊　夕張中岳は芦別岳の北西3キロ弱に位置する山である。地形図にその名はなく、標高すら記載されていない。前年、御茶々岳から目にしたその鋭鋒然とした山容に惹かれ、帰宅して山名を調べてみると「中岳」だったという訳である。国土地理院的には無名峰だが、以前は「鉾ヶ峰」という名称が冠されていたという。無粋な中岳よりも遥かに趣があるというべきか。今回はポピュラーな十八線川をルートとする山中一泊の山行である。一日目はBCまでの5～6時間の行動なので温水池側の除雪地を10時に出発する。十八線川林道は固雪で、勿論ノンラッセル。久々のテント装備は堪えるが、それなりに軽快に飛ばしてゆく。途中で、下山してくる登山者に出会う。「夫婦岩の迫力に圧倒された」と語るその登山者は、拙HPも知っていて、記録などを参考にしているという。嬉しさと恥ずかしが交錯する一方で、世の中狭いものだとつくづく思う。林道終点からいつもの渡渉ポイント（Co490P）を経て斜面に取付く。ここまで90分弱は全く順調だ。登行ルートは、御茶々岳と槙柏山に挟まれた大きな窪地形で、そこかしこにスキートレースが見られる。風もなく、春の日差しが雪をベタつかせる。ラッセルはないが、板に雪が纏わりつきとにかく重い。頻繁に立ち止まって雪を落とす。3月中旬でこの雪質は少し早いかもしれない。見ると、松籟山の南斜面にも大きな亀裂が幾筋も走っている。やはり、暖冬傾向は否めないようだ。青息吐息の登行が続き、主稜線Co1196コルでのBC設置が困難な状況となる。もっとも、御茶々岳・槙柏山コルBC設置でも山行プランに支障はないので焦りはない。重荷・重雪と格闘すること4時間、ようやく、御茶々・槙柏コルに到着する。いきなり現れる夫婦岩。2度目だが、畏敬の念を抱かずにはいられないシーンである。やや御茶々岳寄りの平坦地にテントを張る。雪がグサグサで踏み固めるのに苦労する。早めに夕食を摂り、20時にはシュラフに潜り込むが、この日は月夜。御茶々や槙柏が妖しく浮かび上がり、眼下の富良野の街の灯も意外に綺麗で、少しだけ幻想的な夜になった。【②BC→主稜線Co1196コル→湿原→中岳→BC→十八線川林道→温水池側除雪地】近いようで遠い　二日目は中岳アタック日、タイムプランは往復6時間ほど。それほど早立ちする必要はないのだが、例によって、ヘッデンスタートとなる。先ずは、主稜線Co1196コルを目指して御茶々岳南西斜面を反時計回りに回り込む。明瞭なトレースには大いに助けられた。コルまで上がると眺望が大きく開ける。月は西に大きく傾き、東の空はグラデーションを帯びる。黎明時のセレモニーとしてはあまりに荘厳だ。御茶々のピークに続く尾根が白い帯と化し、目を転じると、主稜線Co1444Pへのゆったりとした緩斜面が広がる。その隣に夫婦岩が並ぶが、ここから見ると鋭さはやや影をひそめる。三角錐が2基鎮座している印象だ。コルからは主稜線西側の湿原に向けて緩やかに下がってゆく。小天狗や中天狗が視野に入り、樹間からは中岳も望めるようになる。雪は柔らかく、下りといえども浅いラッセルとなる。湿原（今は雪原）まで降りてしまうと平坦となり、ほぼ直線的に中岳にルートをとる。淡々としたペースを刻むも膝下ラッセルが次第に体力を奪ってゆく。中岳は常に視界の中だが、それだけに近いようで遠い。湿原の西端に支稜Co1298Pから派生する小尾根が横たわる。支稜に上がるべくごく自然にこの尾根に取付く。広い緩斜面がその背まで続き、北面だけあって雪質も素晴らしい。Co1298Pの西コルまで上がるが、予想に反して雪がクラストする気配はない。支稜からピークまではアイゼン・ピッケルでサクサクと、等と考えていたが大外れである。最初のCo1330コブまで進むが、その先は起伏があり、細い部分もありそうだ。北側斜面をトラバース気味に移動する。しかし、ここも急斜面で、雪崩リスクもありそうなので足早に通過する。と言っても、疲れでスローモーションのような動きだったと思う。BCをスタートして4時間、バテバテ状態で中岳基部に到達する。すでにタイムプランをオーバーしていることもあるが、ピークまでの急斜面も雪深くサクサクとはいきそうにない。斜度は40度以上　気持ちが折れそうになるが、願ってもない好天と大眺望を目にすると撤退する訳にはいかない。「最悪、もう一泊してもいいから登頂する」という気持ちになってくる。目の前には平均斜度40度以上の東斜面が迫る。正に、首が痛くなる角度だ。雪崩が一番怖いが、経験上、雪は安定していると判断する。ここからは、アイゼン・ピッケルだけを持ち、ツボ足でリスタートを切る。傾斜の僅かに緩い所や灌木帯を選んで右へ左へと斜上する。ラッセルは膝までとなり、時には大腿部までとなる。そんな時は、横にしたストックを両手で雪面に押し込み、それを支点に身体を持ち上げる。急斜面ゆえのテクと言えようか。確実に一歩一歩高度を稼ぐ。基部からの標高差は170メートルほど、遠く高かった頂上がジワジワと近づいてくる。直下は僅かに顔を出す植生の側をピッケル利かせて攀じ登る。東端から細い頂稜を辿って西端のピークへ。5時間30分を要して遂に登頂を成し遂げる。そこには疲れが吹き飛ぶような景観が待っていた。証拠写真もそこそこに山々を眺める。西側から見る夕張山地は、勿論初アングルで、どちらかというと、岩稜鋭くアルペンチックな雰囲気な山が多いことに気づく。主峰・芦別岳は別格だが、主稜線の西側に点在する山々（通称「後芦別山列」）にその傾向が強そうだ。特に、シューパロ岳や1415峰（夕張マッターホルン）が目を引き付ける。近くの小天狗や中天狗は言うに及ばず、南の滝ノ沢岳や前岳も小粒ながら存在感を発揮し、夕張岳は我こそ盟主と言わんばかりに一際高く聳えている。いずれにせよ、強い個性を持つ山域であることは間違いない。多くの登山者が入っていいと思うのだが、奥深くアプローチは厳しい。いささかマニアックでもあり、それゆえに登山者も限られるのかもしれない。望外の快適滑走　15分ほど滞在し下山の途に就く。恐怖心もなく、あっさり15分で基部まで降りてスキーを履く。Co1330コブまで戻り中岳を振り返ると、絶壁のような斜面に私のトレースが刻まれている。登下降中に感じなかった怖さをこの時感じたものである。Co1330コブからは、今回の山行中で唯一のスキー滑降を楽しむ。Co1140Pの湿原までなので、高度さもスロープ長も僅かだが、登頂後もあって気分は最高だった。高揚した気分は直後に一変する。往路のトレースを辿るのでラッセルからは解放されるが、今度はベタつく雪に悩まされる。何度も何度も板についた雪をストックで落とす。ペースは遅々として上がらず、ストレスが嵩む。この時、右からスノモのエンジン音が響いてくる。主稜線Co1279P南コル付近の西側斜面に遊ぶ彼ら。正直、この時ばかりは騒音にしか聞こえなかった。疲労困憊状態でも、12時過ぎにCo1196コルまで戻れたのは大きかった。中岳に別れを告げ、テントに戻ったのが13時前。ランチを摂り、余裕でBC撤収作業を済ませる。あとは無事に林道まで降りるだけ。標高差600メートルの斜面を重荷を背負い慎重に高度を下げる。足腰を労わるように斜滑降、山回りターン、プルークボーゲンのオンパレードで、転倒することなく林道終点まで降り切る。安堵しつつも、林道にはベタつく雪が待っているかと思うと気が重い。だが、現実は全く異なる展開となる。雪は適度に腐り、スキーは面白いように滑ってくれるのだ。スピード制御に気を使うほどで、20分ほどで林道を抜け車に戻る。苦難に満ちたアタックを考えると、嘘のようなスピード下山で、結果として、当初タイムプランに比して60分ほどの早着となった。但し、途中で喫した大転倒は、ご愛敬にしては痛すぎた（笑）。気持ち高じるが　私はいつの登山でもそうなのだが、「絶対登頂する」とか「絶対登頂できる」という気持ちで山に挑んだことはない。これは謙虚とは別物で、単独ということもあるのだが、どことなく自信が持てず不安のほうが大きい。今回は特にそんな心理状態にあったように思う。特別、難易度が高い山行という訳でもないのだが、おそらく、夕張の山々が秘める凛とした存在感に圧倒されたというのが正解だろう。それだけに、登頂できたという満足感は一入である。たとえ一歩は遅くても、歩き続けることで目標は達成される。人の力は小さいが大きい。当たり前のことを痛感する山行となった。中岳登山に関して、時期としては固雪となるであろう4月中旬以降がいいと思われる。また、ルートについては、主稜線を南下し、途中からトラバース気味に支稜に向かうという選択もある。こちらは高度を維持できるメリットはあるが、今回目視した限りでは上部が急斜面でイヤらしい。支稜そのものも、地形図イメージより細く起伏もあるので、個人的には長く使いたくはない。総じて考えると、湿原ルートにやや部がありそうだ。今回の登山で登行意欲をそそられる山がまた増えてしまった。気持ちが高じる一方で、体力は確実に逃げてゆく。なんとままならないことか‥。‥


BC背後に夫婦岩	富良野の街灯り

黎明時	小天狗と月

背後の稜線	前方に中岳

主稜線から朝日	うねる支稜‥

全容露わに	小天狗・中天狗

シューパロ岳	基部から中岳

辿りし支稜	東端からピーク

頂上から東端	頂上から北望

頂上から南望	頂上から芦別岳

東端から基部	斜面のトレース

支稜から芦別①	シュプール

支稜から芦別②	湿原から中岳

主稜上のスノモ	小天狗と中天狗

コルから夫婦岩	コルから槙柏山

御茶々岳西面	GPSトラック

コースタイム（2日目）
槙柏御茶々コル	4:15
主稜線Co1196P	5:00
中岳基部	8:10
中岳	9:45 10:00
支稜1330コブ	10:55
主稜線Co1196P	12:15
槙柏御茶々コル	12:40 13:35
Co490渡渉点	14:10
温水池側除雪地	14:30
所要時間	10:15 (1:10)

コースタイム（1日目）
温水池側除雪地	10:00
Co490渡渉点	11:25 11:40
槙柏御茶々コル	15:45
所要時間	5:45 (0:15)




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