434.鉢盛山(夕張山地/1453M）
体力勝負のタフな東尾根ルートを辿り日帰りで絶景の待つ頂上へ
目から鱗が落ち　鉢盛山は夕張山地の中ほど、主稜線上に位置する1400メートル級の山である。登山道はなく、沢遡行か、雪を利用してそのピークに至るしかない。だが、いずれの方法も簡単ではなさそうで、山行記録もネット上で極僅かに見られるだけである。多彩なルートを網羅するあの「北海道の山と谷」でもノーマークの山である。今時は後者の方法となるが、先ず、芦別岳まで上がり、主稜線を南下するルートが一般的だ。しかし、これとて、最低でも山中一泊は必要である。それ以外の積雪期ルートは考えにくく、それ故、非力な私には遠い山、麓から眺める山と化していた。しかし、パイオニア精神旺盛な人はいるもので、山仲間のoginoさんが、積雪期の最短ルートとして「東尾根日帰り」を実践・提案する。意表を突いたその内容に、目から鱗が落ちたものだが、そうは言っても、ロングコースであることには変わりはない。私など、厳しい気象条件の厳冬期は耐えられるはずもなく、ラッセルから解放される残雪期が適時と考えていた。4月の声を聞き、好天の週末を利して、勇躍、計画を実行することにする。登山口となるのは、富良野市山部地区「西一号線」の終点である。ここは三方を山に囲まれ、長大な富良野盆地の南端でもある。往復で11時間～12時間を要する山行なので、早立ちは必須である。前夜に現地入りし車中泊。ヘルメットにヘッデンを装着し4時過ぎにスタートする。先ずは尾根乗越　峰泊沢右岸の峯泊林道を15分ほど歩き、左の林道に入る（地形図の破線林道）。沢沿いのそれは雪に覆われていることもあり判然としない。適当に進み、Co440Pで沢を離れ、右に斜上する林道を辿る。このあたりになると荒廃はしているものの、林道は比較的明瞭だ。林道はCo762の小ピーク近くまで伸びていた。地形図に表記はなく、Co610付近の分岐も気が付かなかった。右手に白い芦別山塊が望めるようになる。Co762の直下南斜面を回り込み、ポントナシベツ川まで高度差230メートルほどを一気に下る。降り立った場所は、Co500二股の上流300メートル地点で、そこは平坦で開けている。ポントナシベツの流れは細く穏やかで、スノーブリッジ利して難なく対岸に。半面山から伸びる尾根の乗越しに2時間15分は予定通りだが、足慣らしにしてはハードすぎる。今回の登山はここからが本番で、気合を入れて衝立の様な斜面に取付く。Co719Pの尾根の背に向けて必死にジグを切る。標高差200メートルを1時間で登り切り、次の目標点Co1098Pに向かう。最初こそ急斜面だが、そこを越えると緩斜面が続く。樹木もそれほど混んではおらず、スキー向きのそれと言えるだろう。Co900付近になると東尾根の全容が望めるようになるが、意外と起伏がありそうだ。Co1000では左側、南東尾根の奥に夕張岳が遠望できるようになる。特徴的な山容はどことなくトムラウシ山を彷彿させる。Co1050付近で樹林帯を抜け出し解放感に包まれるものの、雪は酷くべた付き、板が途方もなく重い。残雪期の宿命として割り切り、淡々と歩を進める。スタート後5時間でようやくCo1098Pの西鞍部に到着する。少し無茶した感　ピークまでの標高差を考えると、1時間30分もあればなんとかなるだろうとの感触を得る。北側には、芦別岳やポントナシベツ岳など、主稜線に連なる山々が飛び込んでくる。絶景に嬉々としつつ、登頂の目途が立ったようで、何となく安堵感を感じていたが、これが甘かった。全体としてはたおやかな部類の東尾根だが、きつい傾斜の細尾根が3箇所現れ難儀することになる。Co1190付近では北側斜面の巻きに苦労し、直後の急斜面では万策尽きてシートラ（Co1210P）となる。Co1340Pでも2度目のシートラを余儀なくされる。実際の地形は地形図イメージよりも険しい印象で、南側は雪崩のリスクが高く、カリカリでエッジングが難しい。一方、北側は固い雪層の上に柔らかい雪が乗り、こちらも慎重なエッジングを強いられる。正直、「巻き」に拘りすぎて無茶をしてしまったという感が拭えない。ここはセオリー通り尾根の背を忠実に辿るべきだった。単独ということもあり、基本に忠実な行動を心掛けるのが肝要である。尾根が広くなると頂上は近いが、手前のコブの西側に身長ほどの段差がある。油断していると、思わぬところでケガをしたりする。自戒しつつ、左側からかわし平坦なピークに立つ。風はあるが眺望はすこぶる良い。急峻でなく壮絶　北側には高さと大きさ、流麗さを兼ね備えた芦別岳からの主稜線が重量感を発揮し、その左には前月、山中一泊で登頂した中岳が寄り添う。端正な山容だがこのアングルでは所詮脇役である。西にはシューパロ岳が長い東面を見せる。南北に長い稜線を持つが、特に、南稜は険悪な感じである。そして、その南に位置するのが1415峰で、別名「夕張マッターホルン」と呼ばれている。急峻というよりは、「壮絶」な山容という表現がピッタリで、醸し出す雰囲気は超アルペン的である。今回の山行、この山を間近で見られただけでもラッキーという他ない。主稜線南側は小ピークがいくつか並ぶが、比較的平坦なため、夕張岳が標高以上に高く見えている。目を引くのは主稜線西側に並ぶ滝ノ沢岳や前岳である。とにもかくにも、個性的な山々が同居する山域である。15分ほどの頂上滞在となったが、この時期と言えども風に吹かれ続けてていると冷え込んでくる。逃げるように下山を開始する。直下は唯一スキー滑降が楽しめるシーンだが、それはアッという間に終わり、あとはひたすら慎重な下降となる。登行時に難儀した場所もスキーのまま下り、1時間弱でCo1098西コルまで戻る。ここからCo719Pまでは、雪質が良ければ、歓声を上げながらシュプールを描くのだろうが、ベタ雪ではどうにもならない。板がかろうじて滑ってくれるだけ良しとしなければならない。Co719からの急斜面は斜滑降の連続で沢床まで降りる。スンナリいかず　ポントナシベツ川を渡渉すると、いよいよ復路の核心部突入である。230メートルの登り返しはまさに正念場だが、上に向かう造材道が使えたことはラッキーだった。何とか70分ほどでCo762直下の林道に出る。あとは下るだけなので、半ば登山を終えたような気分に浸っていた。だが、そうスンナリとはいかなかった。往路を沢まで降りたはいいが、林道を見失ってしまったのだ。ほとんど、沢を詰めた記憶はあるのだが、それらしき地形が見つからない。少し上に造材道を発見しそれを下る。地形図に現れない小さな沢形に出くわし、何度も寸断するが、適当に斜面を下り分岐手前で林道に降りる。帰宅してGPSログをチェックすると、沢床までの降りかたが足りなかったようだ。もっとも、GPSの軌跡ナビ機能を使えば林道を発見できたはずで、このあたりは克服すべき課題である。ラストは峰泊沢の沢音を聞きながら10分の林道歩きでフィニッシュとなる。山行時間はトータル11時間20分。どちらかというと、技術よりも体力を要するタフなルートである。それだけに、好条件に恵まれたとはいえ、苦難に耐え登頂したという事実は、大いに満足出来るものである。貴重な日帰りルートを提案してくれたoginoさんに感謝したい。


朝日背に受けて	右奥に芦別山塊

Co730付近	Co930付近

Co1020付近①	Co1020付近②

夕張岳遠望	Co1060付近

Co1098西コル	対岸の南東尾根

Co1190付近	北に芦別岳

急傾斜の北斜面	辿りし尾根筋

Co1270付近	北の1390コブ

芦別岳・南喜岳	Co1330付近

頂上手前のコブ	頂上から北望

1415峰	シューパロ岳

中岳遠望	十勝連峰方面

頂上から南望	GPSトラック

コースタイム
西一号線終点	4:15
ポントナシベツ川	6:30
Co1098西コル	9:15
鉢盛山	11:30
所要時間	7:15
鉢盛山	11:45
ポントナシベツ川	13:10
Co762P	14:20
西一号線終点	15:35
所要時間	3:50




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