435.シューパロ岳(夕張山地/1436M）
奥深い後芦別山群の超個性派こそ真のアンギラスというべきか
【①新道登山口→半面山（BC）】余裕持ち二泊で　GW前半のファミリーサービスを滞りなく済ませ、後半は満を持して夕張山地のシューパロ岳に挑む。芦別岳の西3キロ（直線距離）に位置するこの山は、南北に長い稜線を有する、所謂「後芦別山群」の一座である。今春、夕張中岳から見た恐竜の背にも似た山容が衝撃的で、強く引き付けられるものがあった。残雪期のルートとしては、新道尾根から芦別岳を経由し、シューパロ岳東尾根を辿るのが一般的と思われる。稀に、日帰山行の記録も見られるが、これは健脚者によるレアケースと言うべきで、基本的には、山中一泊が妥当である。但し、私の場合は、体力的にはそれでも微妙なので、余裕をもって2泊の山行プランとする。 GW後半は絶好の登山日和が続く。天気の不安から解放され、爽やかな気分で初日のスタートを切る。半面山をBC予定地としているので、この日の獲得標高は1040メートルほどになる。テント装備となると決して楽な行程ではない。登路となる新道尾根は、積雪期（2012年3月）に一度上がったことがあるだけで、専ら、下降ルートとして使用してきた。初コースのような新鮮な気持ちで雪の消えた夏道を登る。足元をどうするかさんざん悩んだあげく選択したのがスノーシュー。スキーを担ぐよりは軽いが、それでも悲鳴を上げるには充分な重さだ。理想的なテン場　Co620付近から所々雪が出てきて、Co750辺りで尾根はほぼ雪に覆われ、夏道も消えてしまう。急登が続き思わず唸りたくなる「呻吟坂」をキックステップで上がる。雪は適度に締まっていてスノーシューの出番はない。「余計なものを持ってきてしまった」という後悔の念に苛まれるようになる。Co850で右から支尾根が合流するが、このあたりで背後の視界が一気に開ける。十勝連峰から表大雪まで、「見晴台」の名に相応しい眺望に感心する。鉢盛山以来の久々の登山に加えての重装備。流石に堪えるが、静荷重静移動を心掛ける。Co1107P鶯谷まで上がると、左手の冬尾根が間近に迫り、半面山方向の展望が広がる。一方、右前方には岩峰鋭く屏風岩が現れる。半面山まで標高差270メートル。あとひと踏ん張りだが、尾根は緩急を付けながら高度を上げてゆく。これが結構消耗するのだ。下山する登山者を見送りながら少しだけ視線を上げると、今まさに作付期の富良野盆地が望める。大地の息吹が聞こえてくるようだ。春の午後の日差しは強烈で、気温の上昇とともに雪の腐れが一気に進む。時折、膝上まで踏み抜き、脱出するのに苦労する。それに耐えると灌木の奥に雲峰山と芦別岳が見えてくる。やや傾いた半面山の看板と鈴が疲れた登山者を迎えてくれる。夏道から南に10メートルほど入ったところにテントを設営する。背後の雲峰と芦別に見守られ、眼下には山部の田園風景が広がり、遠くに日高山脈ものぞめる。絶好のテントサイトだが風が強い。やや深めに雪を掘り三方に風除けブロックを積む。念のため、細引きでテントを灌木に固定する。テントを揺らす強い風は朝まで収まることはなく、これは大正解だった。このあたりは風の通り道なのかもしれない。【②半面山（BC）→芦別岳→ポントナシベツ岳→シューパロ岳→半面山（BC）】指呼の距離だが　二日目は日の出とともに行動を開始する。丁度、前富良野岳付近からのご来光に力を得て雲峰を越える。足元はスノーシューだが、折角持ってきたので使用したに過ぎず、ツボでも問題なさそうだ。芦別岳直下の急斜面などは、むしろ足枷になるくらいだ。90分で芦別岳に上がる。とにかく、360度、文句のつけようがない大眺望である。明暗際立つ山岳景観はより立体的に映る。静寂に満ちた本谷、登山者を迎える準備は整ったようだ。目を引いたのは、野や山の隅々までを包み込む太陽のエネルギーである。太陽を信仰の対象する「太陽神」もありかなと思ったりするくらいだ（笑）。目指すシューパロ岳は主稜線に隠れ上部稜線しか見えない。10分ほどの滞在の後、ポントナシベツ岳へ向けて歩き出す。肩にスノーシューをデポし、南西斜面を高度にして70メートルほど下がる。明瞭なトレースがありそれを拝借する。西隣のピークの南基部をトラバースし主稜線に出るが、ここまでが結構長く感じる。そして、そこからポントナシベツまでがこれまた長い。芦別岳からは指呼の距離のように見えるので、そのギャップに戸惑ってしまう。ただ、シューパロ岳を右に眺めながらの稜線散歩は気分がいい。ポントナシベツ岳基部から斜上し、北峰の南で頂稜に乗る。ピーク直下でアイゼンを履き、一登りすると頂上である。東尾根に核心部　芦別から50分だが、体感的にはその倍も要したような感覚だ。ポントナから見る芦別岳はアルペン的雰囲気はなく、優し気な山容だ。前山行で登った南の鉢盛山も全く平坦だが、東尾根は険しそうに映る。前述のトレースは更に南に伸びている。果たしてどこまで行ったのだろうか‥。北も南も魅力的な山が並ぶが、今回の主役は西に全容を露わにするシューパロ岳だ。証拠写真もそこそこに、ピーク直下南のルンゼ形を下る。ポントナ西面は尾根にしろ、沢にしろ傾斜がきつい。尾根には岩場などもあり、下手に拘ると危険である。ならば、雪崩も一段落した沢を下るほうが、はるかに安全でスピーディだ。それでも、300メートル下るのに20分ほどかかってしまった。降り切ってしまうと、辺りは平坦な地形となり、尾根形状ははっきりとしない。ショートカットし、Co1261の西コルでシューパロからの尾根に乗る。心配した踏み抜きもなく、快調なペースを刻む。ほどなく、雪面に尾根を横断する羆の足跡を見る。爪痕も確認できるので、前日辺りのものだろう。撃退スプレーをテントに忘れてきたことを悔やむ。Co1270で今山行中、最大の核心部に出くわす。尾根が30メートルほどの絶壁となって立ちはだかるのだ。左は雪庇が張り出す急斜面で、右は僅かに灌木はあるがほとんど崕地形で、巻きは許されない状況だ。ここは中央突破しかないと判断し、慎重に登り始める。3分の2くらいまでは雪が張り付き問題なかったが、残り3分の1は地面が出ている。ホールドも乏しく微妙な動きを強いられる。ピッケルで支点を確保し何とか登り切る。およそ20分を要した登行は、タイムロスよりも帰路のルート取りが気懸りとなったシーンである。感慨深い登頂に　Co1367辺りからは、左に夕張マッターホルン、右に夕張中岳を眺めながらの贅沢な尾根歩きだ。遠かったシューパロ岳が徐々に近づいてくる。黒々とした南峰と険しい南稜、右に少し尖った頂上が見えるが、こちらはまだ白い。コルまで100メートル近く高度を下げる。左側の沢に真新しい雪崩跡。そのエネルギーを考えると恐ろしくなる。コルからいよいよシューパロへの登りが始まる。ピークまでの高度差は180メートル。ガッチリとした南峰は針峰に容を変える。東尾根の雪面には何か所も亀裂が入り、山肌が露出している。それらを避けながら、右側から回り込む感じで稜線に上がる。ピークは右側で、細い稜線を慎重に辿る。BCを出発して5時間15分、遂に、シューパロ岳の頂上に立つ。今季、中岳から、そして、鉢盛山から眺めたシューパロのピークに今自分が立っていることを感慨深く思う。中岳は南尾根末端まで視界に入るのでより高く感じる。1415峰は急峻な感じが影を潜めスマートなイメージだ。面白いのは、1415峰の北隣に相似形然とした山があることだ。1188峰と思われる。夕張岳はドーム状からゆったりと裾野を広げる山に変わる。西側には幾春別岳が双耳をもたげ、遠く北西方向には増毛の山々が白く輝き、左に目を転じると羊蹄山や支笏湖周辺の山が遠望できる。どこの山も登山者で賑わいをみせていることだろう。食欲に力を得て　証拠写真を撮り、15分ほどで山頂を後にする。後ろ髪引かれる思いだが、ポントナシベツへの登り返しもあり、往路より厳しい山行が待ち受けているのだ。コルからCo1367を経て問題の核心部に着く。尾根頭から覗いてみるが、とても降りられそうにない。北側の小尾根を偵察に行く。高度にして50メートルほど下がった辺りから東斜面を下る。雪崩跡のある急斜面なので、注意深く、しかし、迅速に行動する。安全圏まで降り切り、尾根に戻る。ポントナシベツは、東側から見る端正な山頂を持つが、西側から見ると南北に長い山塊でどこがピークか分からない。アングルによって山の印象はガラリと変わるものだ。復路はポントナのピークに立ち寄るつもりはないので、適当に沢を詰めて頂稜基部を目指すことにする。ヘロヘロになりながらCo1620付近まで高度を上げ、そこから北側頂稜基部へ移動する。高度差300メートルの登り返しに90分を要してしまう。主稜線まで戻り安堵するものの、足取りは全く重い。まるで敗北者のようにトボトボと芦別に向かう。この時、心に浮かんだのは、BCで食する餅入りラーメン、オレンジ、コーラ。食欲が力を与えてくれたと思う。直下50メートルの急登を最後の気力を振り絞り突破する。デポしたスノーシューを回収し一気にBCに向けて急斜面を下る。BC帰着が15時40分、11時間20分の長いアタックがようやく終わった瞬間である。食欲を満たした後は、テントサイトを補強し、早々とシュラフに潜り込む。悲願成就の夜、テントを揺らす強風もこの時ばかりは気にならなかった。【③半面山（BC）→新道登山口】靴下上にポリ袋　3日目は下るだけ。日程に余裕があればこそのゆったり登山である。引き続く好天に気分も晴れやかだ。前日のアタックで登山靴は水が浸み込んで、勿論、乾いていない。そのままでは気持ちが悪いので、靴下の上にポリ袋を履く。当座は凌げそうな感触に一安心する。荷を軽くしようとスノーシューを履くが、鶯谷手前であっさり脱いでしまうことに。つくづく、スノーシューは使用条件を選ぶアイテムだと思う。極論だが、平坦地の湿雪しか使えない。ましてや、傾斜のある斜面などの登行下降など論外である。ちなみに、私のはMSRの登山モデルである。ジャスト2時間での下山完了は良かったが、これは少し早すぎた。かなやま湖畔の温泉で汗を流す予定だったが、オープンは10時から。なので1時間ほど待つことになってしまったからだ。首尾よく目標を達成しただけに、これもご愛敬で済ませられる。温泉の広い浴槽で一人満足感に浸る。今回の山行は、何より天気に恵まれたことが大きい。その上で、山中2泊のプランも妥当だったと思う。BCを芦別岳付近まで上げれば、ギリギリ1泊で何とかなりそうだが、そのためには、2日間をフル活用することになる。若い時ならいざ知らず、今の私の力では厳しい。夕張山地で惹かれる山3座（夕張中岳、シューパロ岳、1415峰）のうち、今季は2座の登頂に成功した。少し出来過ぎの感もあるが、素直に喜びつつ、1415峰は来季の課題としたい。 ★今回初めてスポーツアンダーウェアを着用してみた。どれほどの効果があるものなのか、半信半疑だったが、結果は全く優れものだった。着脱は面倒だが、行動中に痛みや痙攣、違和感は出ず、登山後の筋肉痛や凝りなども嘘のようにない。当たり前だが、発汗性もいい。絶え間ない技術革新、その恩恵を素直に享受したい。

コースタイム（2日目）
半面山（BC）	4:20
芦別岳	5:50
ポントナシベツ岳	6:40
シューパロ岳	9:35 9:50
主稜線Co1620	13:45
芦別岳肩	14:55
半面山（BC）	15:40
所要時間	11:20


大雪・十勝連峰	雲峰と芦別

テントサイト	飛行機雲

ご来光①	ご来光②

夕張岳遠望	芦別岳‥

浮かぶトレース	芦別岳山頂

中岳	ポントナシベツ

足元に本谷	ポントナシベツ

頂上から南望	鉢盛山

1415峰	芦別岳南面

シューパロ岳	下降ルンゼ

尾根から中岳	1415と夕張

羆の足跡	核心部の絶壁

迫るシューパロ	険しい南稜

コルから東面	針の如く南峰

シューパロ頂上	頂上から中岳

ポントナ西面	頂上から南望

ポントナ登路	芦別岳南面

ポントナシベツ	富良野盆地遠望

雲峰のトレース	GPSトラック

コースタイム（3日目）
半面山（BC）	6:05
Co1107P	6:45
新道登山口	8:05
所要時間	2:00

コースタイム（1日目）
新道登山口	9:20
Co1107P	13:10
半面山（BC）	15:00
所要時間	5:40




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