442.カムイエクウチカウシ山(中部日高/1979.2M）
調査山行の目的果たすも悪天で16年ぶりのピークゲットはならず
【①札内ヒュッテ→八ノ沢出合→Co999三股（BC）】下山が勿体無い　初めてカムエクに登ったのは2001年8月中旬だった。その時は七ノ沢出合付近まで車が入り、八ノ沢出合にBCを設置し、翌日山頂アタックした。首尾よく登頂を果たし、その日のうちに下山した。八ノ沢カールを抱いだ鋭鋒は、日高主稜の盟主に相応しい存在感を放っていたが、気軽に足を運べる山ではないことも痛感した。もう、登ることもないと思っていたが、友人がカムエクに行きたいという。9月初旬に一度計画したが、悪天でキャンセルとなってしまった。今月下旬に再計画する可能性があるので、自分自身でルート状況を確かめることにした。今の登山口は札内ヒュッテ。七ノ沢出合までは道道「中札内・静内線」を歩く。距離は7.5キロほどだが、途中数箇所で落石防護柵の設置工事が行われていた。左手の急斜面は高さ100メートルほどにわたって山肌が崩落し、岩盤が剥き出しになっているところもある。恐る恐る、しかし、足早に通過する。それでも、道路そのものは七ノ沢出合手前1キロほどまでは車が入れる。枝沢が氾濫し道路が10メートルほど流失しているが、親切なことにステンレス製の渡階段が設置されている。登山者以外誰が使うのだろうか‥。1時間45分で七ノ沢出合に着く。今回は1泊ということもあり、40リットルザック（日帰沢行用）にコンパクトにパッキングしたので荷は軽い。ローカットタイプの軽登山靴から沢靴に履き替えスパッツをつける。メットを被るといよいよ本番という気持ちになる。大学生3人パーティが下山してくる。十一ノ沢出合にテン張り、札内岳に上がったという。「下山するのが勿体無い」という彼ら。若さが眩しく映る。巻き道抜けると　ここからは秋の陽射しを浴びながら、広い札内川の河原歩きだ。適当に渡渉を繰り返しながら淡々と歩く。水位は膝程度なので気を使う必要もない。16年前はおおむね左岸を歩いたような記憶があるが、今回は主として右岸を行く。75分ほどで八ノ沢出合のテン場に着く。以前は本流の右岸にあったと思うが、八ノ沢を100メートルほど遡ったところにそれはひっそりとあった。薄暗くキャパはせいぜい7～8張程度だろう。大型のテントが一張ポツンと立っている。住人はカムエクアタック中のようだ。ランチを摂り、勇躍、八ノ沢に突入する。と言っても、テン場から巻き道が左岸に伸びていて、200メートルほどは楽をする。テン場に予定している999三股まではゴーロ歩きで特別難しいところはない。Co750で左岸巻き道を抜けると正面にカムエクが見えてくる。八ノ沢カールとそこから発する一筋の流れも視野に。紅葉はカール付近まで降りてきているようだ。ピーク付近に僅かに雲があるが、充分に許容の範囲内だ。右岸からは高さのある滑滝が落ち、日高らしい景観が広がってくる。Co780でも右岸から同様の流入があり、Co850ではルンゼ状のそれを見る。一部雪渓が詰まっていて、おそらく溶けることはないだろう。Co890は三股となり、右岸からは水量豊かな滝が落ちる。おそらく、高さは200～300メートルはあるのだろう。落ち口が確認不能で、さながら、天空から落ちてくるような印象である。対する右股は奥に滝は見えるものの、高さはなく穏やかに流入する。振り返れば、札内川を挟んで対峙する1628.4ピーク（三角点名：中岳）がやたら格好良い。当初は岩内岳と記載しましたが誤りでした魅力的なテン場　所々で左岸に現れる巻き道を利用しながら順調に高度を上げてゆく。平凡な沢形が渓谷らしい渓相に変化してくると、ほどなく、三方から流れ落ちる滝が視界に入ってくる。いずれも、高さも水量も品格もある。中股左岸を降りてくる登山者の姿もある。この日の天気からして登頂の栄に浴したに違いない。おそらく、八ノ沢CSのテントの住人だろう。Co999三股は右岸が草原のような緩い斜面で、沢寄りの一角に平坦なテン場があった。3張ほどの広さがあり、整地すれば5～6張は余裕である。沢床から3メートルほどの高さもあり、増水にも耐えられそうだ。何より、豪快な3本の滝に抱かれ、下流には1628.4ピークの雄姿を望めるのだから、ロケーションは群を抜いている。八ノ沢出合のCSよりははるかに魅力的である。早速、テントを設営し、火を起こす。夕食まで時間があったので滝の偵察に行く。左股は八ノ沢右岸によくみられる滑滝で高さは優に200メートルはある。一方、右股のそれは近づいてみると100メートルほどはありそうで、7～8段に分かれている。中股・本流の滝は滑あり、トイあり、段ありで、こちらも大きい。三者三様の趣を楽しみテントに戻る。時折、小雨がパラつくが、焚火を囲みながら夕食を摂る。辺りが暗くなるまで、あさやんさんと山談義を交わす。彼の山に対する思いは熱く、夢はいつも大きい。私にはないポジティブ思考が羨ましい。2人に共通する喫緊のテーマは翌日の山頂アタックだが、雲行きはどうも怪しい。この時ばかりは、天気予報が良い方に外れて欲しいと願わずにはいられなかった。テントにポツリポツリと当たる雨音を聞きながら、早めにシュラフカバーに潜り込む。【②Co999三股（BC）→八ノ沢カール→BC→八ノ沢出合→札内ヒュッテ】　雨中のアタック　翌日、朝から無情の雨模様。所謂、土砂降りという訳ではないので、5時にアタック装備でテントを出発する。安全・安心下山を考慮し、BC着11時をタイムリミットとする。八ノ沢は999三股までは特別な技術を必要としないが、ここから八ノ沢カールまではややグレードが上がる。平均斜度40度弱。核心部であり、緊張感を持って登高しなければならない。先ずは、中股左岸に刻まれた巻き道に取付く。本流を左に意識しながら笹や灌木のトンネルを上がる。足元は濡れた岩盤なので滑りやすい。小さな沢筋が右から合流してくる。降雨のせいか水量もそれなりにあり、誤って入ってしまうのも頷ける。本流に沿うようにおおむね左左と上がってゆくと迷うことはない。勿論、随所にコースサインがつけられている。所々で本流に出会うと、展望が開ける。Co1140付近では下部で幾筋にも分かれる大滝が現れたかと思えば、Co1300では逆に二条の流れが下で一条となる大滝を見る。全く見応えがある。Co1260付近では本流への迷い込み防止のピンクテープが張られている。下降時に注意すべき場所だ。Co1310過ぎでは2箇所のロープ場がある。いずれも、左足元は切れ落ちていて緊張する。初心者などはピレイをとると安全だ。Co1350付近で沢身に戻り、あとはひたすら上を目指す。この辺りにも巻き道は出てくるが、沢身を大きく離れることはない。降り続く雨、テンションは上がらないが、本流右岸斜面Co1450付近の紅葉が意外と美しい。ガスが次第に濃くなり、雨脚も強くなる。時間的にも予定より30分ほど遅れており、天気だけでなく、ペース的にも暗雲が立ちこめる。Co1500を越えると傾斜が一気に緩み、草原状の八ノ沢カールに飛び出す。カールから撤退　視界は100メートルほどだろうか。羆がいないか確認しつつ、ホイッスルを吹く。道のど真ん中に新しい糞がある。「ここは俺のテリトリーだ」と主張しているかのようだ。カール壁も見えず感激は薄い。念のため、コースサインをつけながら進んでゆくと見覚えのある巨岩に辿りつく。福岡大のプレートは16年前は岩の側に置かれていたが、今は岩にしっかりと張り付けられている。劣化が進み、表面が一部剥がれているが、悲惨な羆との遭遇事故は決して風化させてはならない。あさやんさんを待つが、雨に加え風も出てきた。ジッとしていると体の芯まで冷え切ってしまう。薄手のダウンジャケットを着込む。待つこと15分あさやんさんがガスの中からボ～ッと現れる。ピークまでは90分もあれば上がれるので、時間的には何とかなりそうだが、天気が劇的に好転する兆しはない。稜線上では風雨共に強まることが予想され、眺望を得ることも難しいだろう。単独ならまだしも、ここは思案のしどころだ。そもそも、今回の山行は「調査」がコンセプトであり、その意味ではカールまで上がったことで当初の目的はほぼ達成されたと言っていい。この際、登頂への思いを断ち切り、カールからの撤退を決める。85分をかけて慎重にBCまで戻る。Co1260のY字分岐は、やはり、地形的に真っ直ぐ降りてしまいそうになる。リスクポイントだ。小雨に打たれながらテントを畳んでいると、単独の登山者が姿を現す。彼が頂上に着く頃には天気が回復しているに違いない。「もう1日あれば‥」と思うが後の祭りだ。1時間ほどでBCの撤収を完了し下山の途に就く。沢靴にナイフを　何もかもが、水分を含みザックがやたら重い。加えて、酷い靴ズレだ。テープで何とかなるだろうと思っていたが、効果は全くなく、ついには、素足で沢靴を履いてみたりもするが痛みは増すばかり。左足のアキレス腱付近のアッパーの当りが強いのだ。いっそのこと、沢靴にナイフを入れようかとも思ったくらいだ。何とか我慢し下降していると、雨も上がり、雲間にぽっかりと青空も出てきた。正面には1628.4ピークが、背後には稜線付近も遠望できるようになる。後ろ髪引かれる思いで、八ノ沢出合のCSまで戻りランチタイム。ここで出会った単独者が「八ノ沢は登山靴で登れるか」と聞く。Co999三股までは沢靴は必須であること、そこからカールまでも登山靴で登れないことはないが、安全性を考えると沢靴が優位であること、を伝える。巻き道が増えたことで、遡行スタイルも変わったということなのか‥。八ノ沢をなめてはいけない。山はすっかり登山日和。札内川本流を70分で七ノ沢出合まで戻り、軽登山靴に履き替える。そのフィット感に感激すると言ったら大袈裟か。足の痛みから解放されると、今度は重い荷で肩が痛みだす。なんとも皮肉である。軽やかに下ってゆく釣り人の自転車やミニバイクを羨ましく思いながら、MTBが欲しいと真面目に思う。それでも、恐怖のトンネル歩きに耐え（笑）、15時15分に無事下山となる。 ★テン場　初日、八ノ沢出合を過ぎてからはテン場をチェックしながらの遡行となった。気がついた場所は2箇所。Co740左岸（1張）とCo762左岸（3張）で、狭いが平坦で使い勝手は良さそうだ。但し、増水時には注意が必要。Co830の右岸にもあるらしいが確認していない。ただ、Co890三股近くまでは平坦な河原があり、整地さえすればテントが張れそうな場所はありそうだ。

コースタイム（1日目）
札内ヒュッテ	8:00
七ノ沢出合	9:45 10:10
八ノ沢出合	11:25 11:55
Co999三股CS	14:15
所要時間	6:15 (55)


札内ヒュッテ	またたび橋

流失部の渡階段	七ノ沢出合

秋の札内川	八ノ沢出合CS

Co750付近	890左沢の滝

背後に1628.4P	999三股風景

焚火の楽しみ	テン場風景①

テン場風景②	999左沢の滑滝

999本流の滝	999右沢の滝

闇に光る	Co1140大滝

1140ケルン	1180分岐

1260Y字分岐	1270付近

1300大滝	ロープ場①

ロープ場②	1350付近

右岸斜面の紅葉	カール直下

カール風景	福岡大プレート

1440付近	1140付近

1110付近	GPSトラック

コースタイム（2日目）
Co999三股CS	5:00
八ノ沢カール	6:50 7:15
Co999三股CS	8:40 9:40
八ノ沢出合	11:30 12:00
七ノ沢出合	13:10 13:30
札内ヒュッテ	15:15
所要時間	10:15 (135)




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