41.幌尻岳(北部日高/2052M) | ||
日高の最高峰で山の雄大さを実感するとともに最高の眺望に心酔する | ||
国道から40キロ、林道を奥深く入ったところに登山口となる北電ゲートがある。秋本番、連休、好天と条件がそろえば入山者が増すのは当然の事。この日も20台ほどの車が道路脇に停められている。 パッキングを終え額平川沿いの林道を歩き出す。私はカリマーのニューザック75L、静子はオスプレー55Lを背負い、取水ダムまでの約5キロをひたすら歩く。ウォームアップにしてはややきつく、北電の作業車でも来ないかなあと、つい期待してしまう。取水ダムからは額平川右岸沿いの踏み跡を辿るのだが、いきなり10メートルほどのロープ場が出現。静子などは「えーっ、こんなの聞いていないよ」と弱音を吐く(帰路によく見ると川沿いにもっと易しいルートがあった)。徒渉は四の沢手前からで、山荘までの1時間ほどの間に15〜16回は徒渉するのだが、川幅が狭い分、水流も早く水量も多そうに見える。水深はせいぜい膝上位までだが、何となくいやな感じのする川ではある。下ってくる人達の中には子供もおり、さぞかし大変だったと思う。左岸から五の沢の流入を見るとほどなく山荘である。ガイド等に「山奥にこんな立派な建物が」との記述をよく見るが、全くその通りでただただ驚くばかりである。背後に目をやると、1881峰らしきピークと雲ひとつない青空が広がり、ロケーションも中々いい。山荘には多くの宿泊者がいる様なので、早々にテント泊を決める。夕食を摂り、痛みのある膝に湿布を貼る。いつもの事だが「あと10歳若ければこんなこともないのに‥」と思ってしまう。外はといえば、満天の星空と止むことのない沢音、山荘からこぼれる灯、美味しそうな食事の匂い、人々のざわめき、コーラスの歌声(一部からはヒンシュクも)と雰囲気も良く、寝るには惜しい気もするが、翌日の行動を考えると「休息最優先」と割り切り寝袋にもぐりこむ。 翌朝、食事もそこそこにテントを出発する。最初は針広混合林の中のジグザグ急登だが、ガレ場もなく実に歩きやすい。静子は「まるで大雪みたい」と印象をもらす。急登なだけ高度は面白いように稼げる。1時間で500メートル近くも登ったものである。周囲が広葉樹林帯に入ると「命の水」で、登山道から少し下がった所に細々と出ている。ハイマツ帯に入ると尾根も細くなり、展望は一気に開けてくる。眼下に馬蹄形の北カール、その奥に堂々たる山容の幌尻岳と北に連なる山々。どの山も朝日を浴び神々しいまでに美しく輝いている。特に、戸蔦別から1967峰に至る主稜線の鋭さと美しさは格別である。それにしても風が強く寒い。霜柱が立ち、数日前の雪が所々に残っており、手袋をしフリースの上にレインウェアーを着込んで丁度いいくらいである。カールの周囲を反時計回りに進んでいくと、今度は南側の展望が開けてくる。眼下の幌尻湖とポロシリ山荘、幌尻岳と対峙するかのように鎮座するイドンナップ。南方向には他の山々を威圧するかのように頭を出す主稜線の盟主カムエクと1839峰、そしてペテガリなど、中部日高の山々が一望のものとなる。青黒い山肌と幾重にも重なる山並み、正に日高ならではの眺望である。36枚撮りのフィルムもあっという間に撮りつくしてしまう。つくづく、圧倒的な迫力で迫ってくる大自然を前にしては、それを写真に切り取ろうなどという行為は実に無謀に思えてくる。山頂から降りてきた単独登山者からは「頂上は風が強く飛ばされそうでした。気をつけて」とのアドバイス。聞けば七つ沼でテント泊との事。中々のツワモノの様だ。新冠川コースが右手から合流してくると頂上はすぐである。はやる気持ちを抑える様にゆっくりと頂上に近づく。東カールの広がりを眼下にした時、私達はたおやかな幌尻の頂上の人となっていた。山頂からは東側の展望も加わる。華麗な山エサオマンと札内、勝幌そして十勝平野である。遠くには阿寒の山々、1967峰の上に覆いかぶさるようにニペソツが見え、その左には冠雪した表大雪や十勝連峰と、全く贅沢な眺望である。静子は欲を出してか、七つ沼が見える幌尻肩まで行きたいというが、お互い足腰に不安を抱える身。結局、自重することに。ゆっくり山座固定したいところだが、強風には耐え難く早々に下山する。カールを半周し、西斜面まで戻って食事をする。風もなくなんとも穏やかな気分である。この時、航空機が轟音を発しながら幌尻上空を横切っていくではないか。ここが航路とは思いもよらない事であった。命の水でようやく登る人と出会う。前日、一緒に登山口を出発した人達で、この日は七つ沼カール泊という。うらやましいかぎりだ。連休最終日とはいえ、この日に登った人は私達を含めて僅か5人。少々寂しい感じは拭えない。ジグザグの下りに入ると、沢音が次第に大きくなり、ほどなく山荘が見えてくる。11時半過ぎ、予定より早く無事山荘に到着しホッとする。休む間もなく、テントをたたみパッキングする。少しは軽くなったはずなのだが、その実感はない。山荘を後にする頃、上空には雲が広がりはじめるも急激に悪化する気配はない。少し膝が痛むが、満足感に浸りながら徒渉を繰り返し、取水ダムに着く。ここまで来れば一安心。後は野となれ山となれといった気分である。日高の最高峰にて唯一の2000メートル峰。その雄大さにふれ、格別の眺望を得ることが出来た私達は何とラッキーなことだろう。感謝しながら、その余韻に浸りつつ山行はフィナーレを迎えたのである。 |
■山行年月/天気 |
2001. 9.23(日)/晴 9.24(月)/晴 |
■同行者 |
静子 |
■山行形態 |
沢登+無雪期登山 |
■コース(往路/帰路) |
額平川 |
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コースタイム(1日目) | |
地点分岐等 | 時間 |
林道ゲート | 11:15 |
取水ダム | 12:30 |
幌尻山荘 | 14:40 |
所要時間 | 3:25 |
コースタイム(2日目) | |
地点分岐等 | 時間 |
幌尻山荘 | 5:20 |
命の水 | 6:45 |
山頂 | 8:35 |
所要時間 | 3:15 |
山頂 | 9:00 |
命の水 | 10:30 |
幌尻山荘 | 11:35 12:30 |
取水ダム | 14:10 |
林道ゲート | 15:40 |
所要時間 | 6:40 |