60.1839峰(中部日高/1842M/コイカク岳1741M/ヤオロマップ岳1794M) | ||
夏尾根の急登と主稜線のハイマツ漕ぎに耐え遂に憧れの鋭鋒の頂に | ||
【1日目 /9月20日 コイカク沢出合→上二股→夏尾根頭→コイカク岳→ヤオロマップ岳】 標高がそのまま正式山岳名となった「1839峰」。ヤオロマップ岳から西に派生する大きな支稜に一際高く聳える孤峰である。その位置と山容、高さから日高のどこからもそれと分る個性的な山ともいえる。私達は2年前の9月20日、コイカクシュサツナイ岳からその姿を目にし、畏敬の念にも似た感情を覚えたものである。 数度の縦走をこなし、いま、1839峰を目指し歩を進められることに感謝しつつ、先ずはコイカク沢出合から上二股を目指す。背中の荷は30キロほど(水6リットル)だがそう重くはない。大きな砂防ダムは右岸を巻き、二つの函は右岸と左岸を巻く。徒渉も無難にこなしといいたいところだが、何と静子が川中で転倒してしまう。本人曰く「まだ体が眠っている」とのこと。しかし、この時、重大な問題が発生していたのだ。事が発覚するのはヤオロマップ岳まで待たなければならない。さて、上二股で沢スタイルから登山スタイルに変身する。渓流シューズ等は袋に入れデポしていく。ここからコイカク岳の夏尾根に取り付くが、密集していたネマガリダケは踏み倒され、以前よりはルートがはっきりしているように思う。首が痛くなるほどの急登は流石に辛い。日高の尾根登りらしいといえばそれまでだが、背の荷がこれほど応えるとは‥。1305テン場で一息入れ、夏尾根頭に着いた時は正直バテバテだった。天気は時々陽が差すものの、1839峰やカムエクは雲の中である。それに風が強く、稜線上でのテント泊に不安がよぎる。コイカクで昼食の後、ヤオロに向けて南下する。ここから逞しいハイマツとの格闘が始まる。背丈ほどもあろうかというそれが逆目に枝をはり私達の行く手を阻むのである。手で払いのけ体重をかけながら突き進むのがコツのようである(足にはしっかりとハイマツ痣が出来ていた)。それでも1560最低コルを過ぎ、ヤオロマップ岳への中間点であるヤオロの窓付近でこの闘いは収束する。ヤオロの窓には東側からヤオロマップ沢右沢源頭が函状となって稜線まで突き上げており、恐ろしいまでの迫力である。ここからはアップダウンを繰り返しながら徐々に高度を上げていく。心配したハイマツ漕ぎはなく比較的楽に進むことが出来るが、西風が強くなりガスも出てきた。時々、ピッケルで身体を支え強風に耐えるシーンもあったほどである。悪戦苦闘の末、午後3時にヤオロマップ岳に到着。早速、テントの設営にかかるが、強風を凌げる場所となると中々見つからない。30分ほどして直下の東斜面に一張り分のスペースを発見、落石の危険もなさそうなのここにテントを設営する。念のためテントのロープ固定を完了したのが午後4時、何と1時間もかかってしまった。この夜は疲れもあり、夕食を早めに摂り6時には寝袋に入る。ここで携帯が使用できるかどうか試してみると、あろうことか携帯が全く反応しないのだ。前述したが、静子が徒渉の際転倒したが、ポケットに入れてあった携帯も水没したのだ。これで下界との通信手段を失った訳けで悔やむことしきりであった(その後も機能回復はならなかった)。 【2日目/ 9月21日 ヤオロマップ岳→1839峰→ヤオロマップ岳→ヤオロの窓→1560コル】 浅い眠りから覚めたのが4時頃、外へ出てみると風も止み、東側に目をやると国道沿いに点在する街の灯りが見える。日高の山でテン張るとどこかの街の灯りが見えるとガイドに記述があったが、その通りのようだ。原始性や自然に触れたくて山に来るのだが、そこから街の灯りを見てホッとするのは自己矛盾というべきかも知れないが‥。もう一眠りの後、今度はヤオロの頂に行ってみる。西にその全てを曝け出した1839峰の登場である。逸る気持ちを抑えつつ朝食を摂り、サブザックに荷を移す。 6時30分過ぎ主稜線に別れを告げ、1839峰へむけ支稜を歩き出す。ここからは踏跡も判然とせず、猛烈な藪漕ぎを強いられる。かなり構えての登行である。が、予想に反してルートははっきりしており、藪漕ぎもさほどではない。小さな起伏を越え順調に最初の1781ピークを通過する。ここから西に進路を変え、ハイマツ帯と笹原を一気に100メートルほど下る。稜線は、北は無名沢、南はサッシビチャリ沢の源頭が鋭く突き上げた痩せ尾根で、アップダウンも多く、ダケカンバや潅木が生い茂り行く手を阻む。救いは、南斜面の小規模なお花畑と(この時期は花などはなく羆の掘り返しがあるだけ)左右の眺望が得られることである。雲ひとつない青空を背景に、すっくとそびえ立つ1839峰が前山を従え徐々に近づいてくる。前山から一旦下降し、直下の壁に取り付く。固定ロープがつけられているが少し短いようなので、万全を期すべく10メートルロープを出し静子を確保する。ここを登りきるとその向こうにもう高みはなく、遂に1839峰の頂に到達する。山頂には1839峰と書かれた木の標識が無造作に置かれているだけで、実に日高らしい。主稜線から離れているだけに眺望は文句のつけようがない。どの山も印象深く挙げればきりがないほどだが、強いていえばコイボクカールを抱えた盟主カムエクとその南に位置する1823峰の堂々たる山容ということになるだろう。昼寝でもしたくなるような気分だが、帰路のハードなバイトもあり30分ほどの滞在の後、後ろ髪を引かれる思いで山頂を後にする。ヤオロマップに着いたのは昼過ぎで、静子が往路で落としたストックを1781峰の笹原で発見できたのはラッキーだった。ここでもう一泊するか迷ったが、翌日の行動を考慮し1560コル付近まで戻ることにする。慌しく昼食を摂りテントを撤収する。何と1時間半近くもかかってしまった。北方向を見ると、コイカク夏尾根頭付近にテントが3張、コイカク頂上に1張とほぼ満杯状態のようだ。ヤオロの窓手前でマウンテック・大橋主催の「1839峰山行」の一行と行き違う。参加料28000円とか、行きたくても一人では行けない人達にとっては手頃な料金といえるだろう。午後3時過ぎに1560コルのテン場に着く。1839峰も十勝平野も見える。風を凌げるのもうれしい。そういえば、日没直前には超珍しい「2つの太陽」が現れた。普段は夕陽をじっくり見る機会などなく、山に来たからこそ目にすることが出来た現象といえるだろう。 【3日目/ 9月22日 1560コル→コイカク岳→夏尾根頭→上二股→コイカク沢出合】 最終日は下りるだけなのでゆっくりしたいところだが、テン張っている場所が登山道を占拠しているだけにそうもいかない。少し凍りついたテントを早々とたたむ。5時半頃には1839峰へのピストン組が鈴の音ともにコイカクを下ってくる。往復10時間近い山行だけにそれなりの荷を背負っている。私達がコイカク岳頂上までのハイマツ漕ぎに耐え、夏尾根頭まで戻る間に出会ったピストン組みは10人ほどはいただろうか。ヤオロ泊組もおり、今日の1839峰頂上は前日とはうって変わって賑わうことだろう。前日に引き続く好天、私達同様に幸せな人達である。中部日高の山々に別れを告げ夏尾根を下る。途中で、コイカクを往復するというパーティやヤオロマップでテン張るという登山者と行き交う。この山域でこれほどの登山者に会うとは驚くばかりである。地味ではあるが人気山域なのだろう。上二股からはどこまでも澄んだ青空と秋色に染まる木々の中、1839峰への山旅を反芻しつつ、マイナスイオンを身体一杯に取り込みコイカク沢出合までのやさしい沢歩きで締めくくる。 |
■山行年月/天気 |
2002. 9.20/晴のち曇 9.21/快晴 9.22/快晴 |
■同行者 |
静子 |
■山行形態 |
沢登+無雪期登山 |
■コース(往路/帰路) |
コイカク岳夏尾根 |
↑ |
コースタイム(2日目) | |
地点分岐等 | 時間 |
ヤオロマップ岳 | 6:35 |
1781ピーク | 7:10 |
前衛峰 | 8:35 |
1839峰 | 9:20 9:55 |
前衛峰 | 10:35 |
1781ピーク | 11:45 |
ヤオロマップ岳 | 12:25 13:45 |
ヤオロの窓 | 14:50 |
Co1560コル | 15:05 |
所要時間 | 8:30 |
コースタイム(1日目) | |
地点分岐等 | 時間 |
コイカク沢出合 | 5:30 |
上二股 | 7:05 7:30 |
Co1305p | 9:35 |
夏尾根頭 | 11:20 |
コイカク岳 | 11:35 12:00 |
ヤオロの窓 | 13:15 |
ヤオロマップ岳 | 15:00 |
所要時間 | 9:30 |
コースタイム(3日目) | |
地点分岐等 | 時間 |
Co1560コル | 6:45 |
コイカク岳 | 7:45 |
夏尾根頭 | 7:55 8:10 |
Co1305p | 8:40 |
上二股 | 9:20 |
コイカク沢出合 | 12:15 |
所要時間 | 5:30 |
総所要時間 | 23:30 |