132.有明山(北大雪/1634.9M) | ||
大眺望を独り占めし標高差700メートルものパウダー斜面を大滑降 | ||
有明山は手塩岳山行の翌日アタック予定だったが、携帯故障事件でキャンセルとなった曰くつきの山である。「北海道の山と谷」によれば、積雪期グレードは「!」なのだが、ルートタイムが5時間から7時間と幅のある設定となっている。雪の状態や天候によっては厳しいルートにも変貌するということらしい。ま、これは冬の山一般に言えることなのだが、私の場合、手塩岳の前例もあるので安易に取り掛かるのは禁物だ。「日の出とともに歩き出す」位でなければと思い深夜2時に池田を出る。途中、糠平温泉近くで立派な角を持った鹿と接近遭遇。ライトが目に眩み動けなくなったらしい。国道333号北見峠から5.6キロほど白滝寄りの湧別川沿いの林道入口が登山口である。国道が左にヘアピン状に屈曲しているのだが、思い込みというのは恐ろしいもので、少し手前に似たような地形がありそこだとばかり思い込んでいた。除雪までして車を止め、念のためにとGPSでチェックしてみて誤りが解るというお粗末ぶり。慌てて本来の登山口まで車を走らせる。5時少し前に到着し日の出を待つ。行き交う車も流石に少なく、辺りは闇に包まれている。満天の星空は好天を約束しているかのようで「絶対に上まで行くゾ」という決意を新たにする。 5時30分、いつもの装備プラス熊撃退スプレーに身を固め湧別川左岸の林道を歩き出す。トレースは全くなく最初から20センチほどのラッセルとなるも、雪質がいいのでさほど苦にはならない。林道が南西から南に方向を転じると北尾根は近い。適当なところから林道を離れ、スノーブリッジを渉り北尾根に取付く。ここまで2キロ少々。ここの区間をどれだけでカバーできるかが一つの目安だが、およそ70分。快調なペースに安堵する。急な斜面をジグ登高し尾根に乗るとそこは平坦な雑木林だった。コンパスを南東方向に切り、本格的な登高を開始する。コーステープが30〜50メートル間隔で付けられている。有難いと言うべきか、煩わしいと言うべきか‥。林道より雪質は更に良く、サラサラ雪が20センチほど積もっている。東から陽が差し込みだし、新雪が煌いている。何となく荘厳な感じがする瞬間である。左後方には白いチトカニウシ山が姿を現している。思えば、この山の全容を目にするのは初めてで、丁度、北見峠を挟んで有明山と対峙する位置関係になる。ブッシュもない広い斜面を淡々と登っていくが、一旦傾斜がなくなるとCo1034P付近で、雑木林から針葉樹の森へと植生は変化する。右後方には天塩山塊が視界に加わり、前方にはCo1488コブがあくまで高く聳えている。風もなく、早春の優しい陽射しが森の中に注いでいる。全く穏やかで、例えば、森の妖精が住むとすればこんな場所に違いないと思う。ただ、一度天気が荒れだすと方向感覚を失う可能性大で注意が必要な場所でもある。妖精の住処を抜け出すと再び傾斜が増すが、周囲は疎林の美味しいパウダー斜面となる。スキーのクライミングサポートを最大にして直線的にルートをとる。それでも、樹木の周りに出来た吹溜りや穴のせいで迂回をさせらりたりもする。大事なのは、常に大まかな現在地を把握しつつ、コンパスで方向を定め目標物を決めること。迂回してもいいから、その目標物に着いたら再度コンパスで方向確定する。この作業を億劫がらずに繰り返すことである。広かった尾根が狭くなり、上方が開けてくると尾根頭はもう直ぐだ。どんな眺望が待ち受けているのか、いつものことだが胸が高鳴るのを感じる。尾根頭まで上がると視界は一気に広がる。正面に1488コブとその奥に目指す有明山が見える。小振りだが東壁は中々の迫力がある。目を引かれたのは、南西方向の平山連山からニセイカウシュッペ山へ連なる山並みで、たおやかなニセイカウシにあくまで険しいアンギュラス。雪は山の特徴をより鮮明にするようである。眺望を楽しみつつも、東側の雪庇に注意しながら尾根の中心よりやや西側のダケカンバ・ハイマツ帯を行く。1488も1574も中心を避け西斜面をトラバースする。雪はクラストしてたり軟かったりで一様ではないが、比較的平坦なこともあり、スキー登高に支障はない。が、それもピーク直下までで、それから先の波打つクラスト急斜面は歯がたちそうにもないので、スキーをデポしツボ足に切り替える。歩き難い兼用靴だが、懸命にキックステップをきる。上がりきると頂上は指呼の距離。ここからは東側の天狗岳と小天狗を望みながら頂稜散歩を楽しみ南東端の頂上の人となる。北大雪の山々は言うに及ばず、表大雪や東大雪までが一望の下にある。快晴、微風というコンディションとも相まって、シーズンに1回あるかないかくらいのロケーションで、独り占めするのが申し訳ない気持ちになってしまう。写真を撮り尾根頭まで下降しランチタイムとする。 尾根の頭から末端まで標高差にして700メートルほど。Co1034付近の平坦地以外、全ての斜面でパウダースノーを味わうことが出来た。ショートとロングを織り交ぜながらターンを繰り返す。往路のトレースに沿ったり離れたり、余裕の滑りを楽しむ。ただ、下部は傾斜が緩く雑木林も少し煩いのでスピード全開という訳には行かなかったが、欲を言えばキリがない。北尾根を離れ林道に出る。と、嫌な予感が的中してしまう。春の陽射しは想像以上に強いらしく、雪がすっかりベタつき、スキーが高下駄状態になってしまうのだ。何度も止まって雪を落とすが直ぐについてしまう。重雪用のワックスでも持ってくれば良かったと後悔する。それでも、好天に恵まれ眺望とスキーを心ゆくまで楽しむことが出来た。8時間足らずの山行だったが、久々に味わう満足感であった。 帰路は山行の疲れと充足感からか激しい睡魔との闘いであった。その闘いに屈せず運転できたのは、車中から望める完璧に白いニセイカウシと表大雪の山々があまりに刺激的だったせいだろうか。 |
■山行年月 |
2006.03.10(金) |
■天気 |
快晴 |
■同行者 |
単独 |
■山行形態 |
積雪期登山 |
■コース(往路/帰路) |
北尾根 |
↑ |
コースタイム | |
地点分岐等 | 時間 |
林道入口 | 5:40 |
北尾根取付 | 6:50 |
Co1034P | 8:10 |
北尾根頭 | 10:05 10:15 |
頂上 | 11:10 |
所要時間 | 5:30 |
頂上 | 11:20 |
北尾根頭 | 11:50 12:20 |
Co1034P | 12:45 |
林道入口 | 13:35 |
所要時間 | 2:15 |